モノマネ四暗刻 吉本地下モノマネ王座決定戦!(シアターD)

あれは20年も前になるのか、モノマネ業界の頂点にモノマネ四天王が君臨していた時代があった。その後、四天王が衰退すると、モノマネ四賢人、モノマネ四大老、モノマネ四谷大塚、モノマネ四肢痙攣、モノマネ4Pの栄枯盛衰を経て、今や時代はモノマネ四暗刻の掌中に。そのモノマネ四暗刻とは、こりゃめでてーな広大、セブンbyセブン玉城、ハンマミーヤ一木、とくこ。この四つの対子が集合すると聞きつけたら、劇場に向かないわけにはいかない。しかしこれが驚愕のイベントだったのである。
開演早々、舞台上のホワイトボードを見て知ったのは、このイベントがトーナメント戦であること。出演者4名に対して1回戦の対決が6つ。つまり1人が1回戦に3回ずつ参加する計算で、同一人物が勝ち進んだ場合、変則ブロックの準決勝が自分vs自分、決勝も自分vs自分という思春期の葛藤みたいになる可能性も十分あるわけだ。
そして戦いの幕が切って落とされると、『スチュワーデス物語』の松本千秋(とくこ)、ジェームス三木(玉城)、『ちはやふる』の綿谷新(広大)、与沢翼(一木)など、攻撃的なのか閉鎖的なのか方向性が分からないならまだしも、若い女性客にとっては二次元三次元を問わず本当にこんな生物が存在するかどうかも理解できない百鬼夜行が目の前を通り過ぎていく。出演者の口からは当然のように「みなさん、分からなかったらスマホで画像検索してください!」の告知が飛び出した。これは「モノマネ」ではなくただの「啓蒙」である(よく考えたらかつてビジーフォーがやっていたことだ)。
そして骨肉相食むバトルの結果、3つのブロックを制したのは、こりゃめでてーな広大、こりゃめでてーな広大、そしてこりゃめでてーな広大だった。危惧した通りである。さらに勝利を重ねたあまり、広大の潤沢なM(モノマネ)資金も尽きた様子だ。こんな状況で、はたして何のモノマネをするのか? 観客が見守る中、司会の竹内健人は「最終決戦は個人戦ではなく、4人による団体モノマネが行われます」と発表した。
ここまで読んで、人道にもとるメチャクチャな展開に愕然とする読者もいるだろう。しかし地下ライブを十数年見続けてきた私は、これしきのことでは驚かない。衝撃だったのは、その後である。
決勝に上がった4人の団体モノマネは西遊記、対するもう一方の団体モノマネ(当然同じ面子)はタイムボカンシリーズの悪玉だ。とくこのドロンジョ、広大のボヤッキー・・・と視線を移行させていくと、見たことのない二人が立っていた。
玉城が言った。「トンズラーです」
一木が言った。「ドクロベーです」
確かにコスプレはしている。しかし似ていない。似ていないというか似せようという気が感じられない。気概を感じられないというかもはやトンズラーでもドクロベーでもない。落盤事故から生還した陽気な炭鉱夫のようだ(左2名)。
二人は言った。「実は『タイムボカン』、よく知らないんですよね」
予感は的中した。玉城に至っては、先ほどの対戦でコスプレしていた『バジリスク』(『甲賀忍法帖』原作のマンガ)について、「マンガもアニメも見たことありません。パチスロで見ました。といっても、その機種は打ってませんよ。台の後を通る時、チラ見しただけ」とうそぶく始末だ。
コージー富田を筆頭に、モノマネ芸人たちが「モノマネしようと思った対象をテープが擦り切れるまで繰り返し見て研究する」のが常識になったこの現代、一瞬見たものを造形物として再現しようとする玉城。これは芸人ではなく、偵察に向かった忍者の仕事である。
このモノマネ四暗刻、たとえ四暗刻だとしても単騎待ち・フリテン・鷲津巌に放銃&血液没収だと思う。鷲津巌が分からない人はお手元のスマホで画像検索してください。