【雑誌記事再掲】「RGvsハブ」は 語るべきことなき頂上決戦

 時計の針が12の上で重なり、日付が12月20日に変わった。これから19時間後、地上では漫才の祭典『M-1グランプリ2008』が行われる。その最中、新宿の地下では何の因果か同時代に生まれた二人の芸人が、くだらなさの雌雄を決しようとしていた。

 その芸人とは、あらゆる空間でスベリを撒き散らしては這い上がる不屈のバンプ野郎・レイザーラモンRGと、“天才”を自称する未確認軟体物体のBコース・ハブ。二人が相見えるライブ「RGvハブ~ジャッジ熊谷~」は、さかのぼること7ヶ月前、100本勝負が行われたが結果は奇跡のドロー。早速、ノーピープル&エニウェア&ハイリスクノーリターンの再戦がキャベツのおいしい嬬恋村で行われ、その始終を撮影した禁断の映像がついに日の目を浴びるのだった。噂が噂を呼んだのか、イベントのチケット初動売り上げは14枚。急遽、東京吉本の若手芸人が招集を受け、「大忘年会」の企画をねじ込んで開催にこぎつけた。

 スクリーンには起伏に富んだ草原が映し出され、そこに合戦に向かう侍の表情をしたRGとハブがゴルフカートに乗って燦然と登場。RGが赤褌一枚、ハブがブリーフ(肌色)のみ着用である事実については、もはや当たり前すぎて何の説明もない。そして幕が切って落とされると、局部を映さずにどこまでカメラに寄れるかを競う「チムコチキンレース対決」、リアルさを競うあまり本当に地面にむしゃぶりつく「羊になって牧草を食む対決」、もはや戦いか何なのか分からない「この状況をテレサ・テンだったらどう歌う?対決」など、40を超えるお題をめぐって戦いが次々と展開される。無手勝流のヨガポーズと果敢な下ネタを武器にハブが切れ味鋭く攻め込めば、追い込まれると必要以上に本領を発揮するRGがせり出た腹を揺らして迎撃。一進一退の攻防が続くうち、草原はとっぷりと闇夜に包まれ、このくだらない局地戦が終わらないかぎり、嬬恋には二度と朝が訪れない気さえしてくる。そして大自然を背景に大人二人が無為なアクションを繰り返す光景に、観客は腸が切れるほど爆笑。そこに「くだらねえ」以外の言葉が介在する隙間はなかった。「RGvsハブ」は、もはや語られることが至上命令になった「M-1」に対し、お笑いの生態系破壊を危惧した芸人の神様が、慌てて投入した人柱だったのかもしれない。

 やがて対決は落下した架空ミサイルのダメージから早く起き上がる「ヒュ~、チュドーン!対決」を迎え、深い傷を負った二人は立つことができず試合はノーコンテストに。それから数時間後、『M-1』ではNON STYLEが優勝を収め、その足元に累々と広がる芸人の屍の最下層に二人は沈んでいった。しかし何も語るべきことがない頂上決戦は、RGとハブが神々しくも莫迦々々しいかぎり、これからも続いていく。青空の下、そこに劇場があろうとなかろうと。