お笑いセメントマッチ・〆さばヒカル追善興行(誕生八幡神社)

これも供養かと思い向かった追善興行は、その豪華な顔ぶれに息を飲む。〆さばアタルはもちろん、主催のベン村さ来から、ブッチャーブラザースのブッチャー、せーじけーすけ、寺田体育の日、元キリングセンスのシャブ、マグナム北斗、受付には相馬ひろみ、客席にはホーキング青山の姿が! どうだこの興奮、全然伝わらないだろ! これはまさに私のお笑い原風景である初期「すっとこどっこい」に参加していた面々。飛び込みでキャイ〜ンが漫才したのも嬉しかったし、名前しか知らなかった伝説のたけし軍団・負古太郎(勝新太郎を反転させて命名)を目撃できたことも至福だった。きっとこの体験は今後私の人生に何ひとつ影響を与えないだろう。しかし時は流れたものだ。せーじけーすけ・けーすけの刃物な顔つきが鋭利さを失い、くたびれたスーツを着こなす寺田体育の日はよく見れば下流社会で生まれ変わった村上龍みたいな容姿になっていた。リアル5分後の世界だ。
さて興行は〆さばヒカル馴染みの芸人がネタをかけ、トークコーナーでは面影を偲ぶが湿っぽい空気はほぼ皆無。話によれば最近は寄席での活躍が認められ、落語芸術協会の準会員にまで昇格していたらしい。生前にもう一度見ておきたかった、なんて安くて中身のない科白を私は吐かない。そんな悔悟をしないために、これからもただ劇場に足を運ぶだけのことである。
はたして舞台は、お悔やみをあげるフリをしてただ浅草芸人の悪口を産廃車一台分ぶちまける前田燐師匠の乱入などがありつつ、演者と観客揃っての「アタルー!」コールで〆。珍妙な芸名を持ちながら時代を築けなかった芸人の夭折は哀しいというより、どこか滑稽だ。そのことを〆さばヒカルは教えてくれた。だから私は昨日よりまた少しお笑いが好きになった。いつか負古太郎が亡くなった時は、ひと知れず小さく胸を痛めるのかもしれない。その情報が万が一伝わったらの話。