22世紀寄席(シアターブラッツ)

東京吉本の多摩川グラウンドことシアターブラッツへ。噂に聞いていた「22世紀寄席」は来世紀には売れているであろう若手を集め、観客の挙手によって売れる時代を判定する、時空を超えた陪審員制度である。というシステムだけでも十分画期的なのに、シアターブラッツでは十分に見慣れた「客席の中に設けられた芸人席」がいよいよ会場の後半分以上を占拠。その過剰な身内の熱気は『オールザッツ漫才』の雰囲気を超えて、ほとんど賭場だ。
さてこの日怒涛の笑いをかっさらったのは、角田信朗絶唱する『よっしゃあ漢唄』にのせて寿司をたらふく頬張るだけのコントをしたキャベツ確認中と、「脱・ホットドッグ」なる短い無言劇に挑んだアホマイルド。2組はのけぞるほど面白く、客の審判によって2040年代には売れることが決定した。若手芸人にとって30年後なんて来週みたいなもの。もう売れたよおめでとう。
ちなみに壮絶な器用さから私が密かに売れるんじゃないかと予想している、こりゃめでてーな・広大は、「もしもカイジが幼稚園の先生だったら」を披露。バッファロー吾郎のライブに出れば「超新星」「神の子」と絶賛されること必至の完成度にかかわらず、観客の反応はほとんどなく、参加芸人中もっとも未来に近い「2096年に売れる」のお墨つきをいただいていた。カイジがいてあんなに「ざわッざわッ・・・」しなかった空間も珍しい。あまりの静けさに舞台上のカイジ福本伸行タッチの汗をかいていた。
ところで会場後部に座る芸人のリアクションを見るフリして、観客の様子をチェックしてみたところ、社会的弱者とマイナー芸人がお互いに心を温めあうライブだと思っていたのに、結構みんな笑っていないことに気づいて愕然とする。トリのしんじがゲレンデを滑走するように会場後方から舞台へと一直線にヘッドスライディングした瞬間、通路席に座っていたキレイな女の子が般若のような顔をしていた。ネタが終わって一瞥すると、彼女は席から姿を消していた。イヤミでもなんでもなく、私は「聡明な子だな」と思った。健やかな女子は22世紀に希望を見出さず、今を生きる。