バッファロー吾郎の23時間半ライブ(Zepp Osaka)

ダイナマイト関西』が笑いのナイフを咽喉元に突きつける企画であるなら、23時間半ライブはそのナイフを使って延々と林檎を剥き続けるようなイベントだった。終演後、胸に押し寄せてくるものは「凄いものを見せられた」という感動でなく「大爆笑もだだ滑りもあった。まさに人生って幾年月」という感慨。剥いた林檎を何に使うのかはよく分からない。
当初は「おしゃべりサラダ」の増量版と聞いていたが、始まってみればこれまでバッファロー吾郎が臨床実験を繰り返していたイベント企画がめくるめく投下される。印象に残った場面を列挙すると、
打ち合わせを公開したユニットコント制作では、一休さんを下敷きにした「頓知よ静かに流れよ」なる全面的に男闘呼組にオマージュを捧げたコントが完成。そして軽いネタ合わせののち、バッファロー吾郎・竹若が披露したダークサイド一休さんのキャラは、エグいこと山の如しグロいことボタ山の如し。あんなにちょっとセリフをなぞっただけで、こんな完成度の高いコントが出来上がるなんて。マンガが実写になるのではなく、2次元世界がそのまま立体化したのを目撃したような衝撃を覚える。
タイトルのみ与えられる即興コント対決企画。最初に登場した浅越ゴエが巧妙な演技と見事な筋作りで物語の生地を生み出し、続く出番の竹若と友近が美しい意匠を織りなしていくが、さらに南海キャンディーズ・山崎の登場で物語は裂帛。加賀友禅の花嫁衣装が九分出来上がっていたはずなのに、突然袖なしジージャンが生まれたような展開に。さらに相方の山里もフォローするでもなく、その袖をどんどん短くするような芝居をしていた。二人揃って俳優としては0点で芸人としては高得点。
朝8時前後の朝の体操指導として、なかやまきんに君が舞台に上がる。眠っていない客の白濁としたテンションも手伝ったのか、追い込まれたなかやまきんに君のギャグが全打席長打を叩きだし、きんに君の芸人人生ベストワークではと思うほど、場内が大爆笑に包まれた。さらにその波に乗らんとばかり飛び出したのは東京から唯一の刺客・サブミッションズ。談志姿で現れたサブミッションズ前田は江川・掛布・西本の80年代野球選手模写にくわえて、武藤敬司金本浩二テリー・ファンクとプロレス物真似を延々とこなし、会場の空気を一気に外気より低い絶対零度まで落としていた。さらにバッファロー吾郎とのプロレスごっこは、大阪府内で笑っているのは私と男性数名という非常事態で、「ランバージャック・デスマッチだ!」と叫んでいた割りに、結果は両者リングアウトであることが歴然。
矢野兵藤・矢野の腰の座った泥臭いトーク、「ダイナマイト関西」でのプラン9・お〜い!久馬魚眼的発想力、南海キャンディーズ・山里のインチキ臭さが刺激臭クラスの漫談など、見所は当然ながら満載の中で、個人的にもっとも輝いて見えたのは、ケンドーコバヤシ。関西人に「何を今さら」と鼻であしらわれるのを承知で書けば、脳にストックされたマンガ、プロレス、テレビ、それ以外の単語量と引き出すスピードが尋常ではない。ハゲズラをかぶった竹若に「ルパン3世で卵型爆弾作った博士みたいですね!」の例えに私は悶絶した。記憶はおぼろげなのにコバヤシの口から発された瞬間にイメージ像が形作られる凄さ。杖振れば何か笑いが生まれる、創造神のオーラが見え隠れする。
それに対してだだすべりの悪魔に魅入られたのが、レイザーラモン・出渕だ。早朝にプロデュースした「欽ドン!」のパロディ企画「イズドン!」は、演者が「空を舞う埃が見えた」と語ったほど、舞台には核戦争後に残された世界なみの静寂と無風が広がっていった。その光景が半覚醒状態の脳裏に刷り込まれたのか、それ以降、出渕には女子の雲固を食べた生徒に向けるのと同等の視線が突き刺さり、何を言っても観客はほぼノーリアクション。もうzeppのステージに種を蒔いても花は育たないかもしれない。
イベントが終わってみれば、バッファロー吾郎ケンドーコバヤシのナイフは私の心を貫き、出渕のバターナイフは心のパン耳に安マーガリンを塗っていった。そしてサブミッションズは刺客にかかわらず東京に匕首を忘れてきたような気がする。