納豆がないのでトルコアイスに薬味を入れて混ぜてみる

編集者と打ち合わせのため、特別な思惑もなく近くにあったトルコ料理屋へ。
店内の匂いをどこか懐かしく感じたのは、10年も前、私が1ヶ月ほどトルコをふらふらと旅行していたせいだろう。そのことを編集者に話すや、
「そうだったんですかあ。じゃ、注文お任せしますよ」
とメニューを一任された。おそらく経費で落ちるに違いない。しかしここぞとばかり高額な鉄板焼きやケバブ料理を頼むのも大人気ない話。私は前菜、サラダ、メインディッシュを各1000円前後で収まるようにオーダーした。
あまり仕事をしていない編集者だったので、私は面白いライターと思われるべく、”トラブゾンで本場のフーリガンに襲われた話””コンヤで見たポルノ映画について””武器商人のバイトを兼ねながらのクルド人救出譚”など手持ちのトルコネタを、一部、船戸与一の小説をそっくりパクりながら惜しみもなく投下。座も暖まり、話が『蝦夷地別件』の下巻にさしかかった頃、いいタイミングで食事が運ばれてきた。
テーブルに並べられる3つの皿。湯気の源に目をこらすと、全てが豆料理ではないか。
値段ばかりに気を取られていたのが、パーフェクト裏目に! おそるおそる編集者の顔を窺うと、スロット好きにかかわらず色を失っている。スロット童貞の私が目押しで3つも同じ料理を並べたのが不服なのか?
ふと視界にコイン挿入口とレバーが飛び込んできたので、あわてて100円玉を押し込み、レバーを下ろしてみる。しかしテーブル角に置かれた古い占い機からは、紙片がコトンと渇いた音を立てて落ちただけ。3枚の皿がシャッフルされることはなかった。
あれ以来、編集者からの連絡はない。