点棒ケースに紛れ込んだ『小枝』は1本10点の扱い

麻雀大会があるからと、友人のK君宅に招かれたのである。最寄の駅に到着して電話を一本入れると、既に麻雀は始まっている様子。電話の向こうのK君から、足りない食材を近くのスーパーで調達して欲しいと頼まれた。K君は麻雀と中華料理が得意なうえに、恋人には纏足を強要するという国籍不明なナイスガイなのだ。
そしてスーパーに寄った私が家へ急いでいると、正面からぐんぐんと接近するカップルが視界に入った。理由は何ひとつ分からないが、どうやら私に用があるらしい。コギレイな形(なり)の二人は、夏休みの宿題から解放されたブラジル人レベルの素敵な笑顔を浮かべて、私に質問を投げかける。
「あのすいません。三宿の交差点ってどっち行けばいいか分かりますか?」
「あーごめんなさい。僕ね、地元の人間じゃないんで全然分からないんですよ。別の人に聞いてもらった方が」
「……そうですか」
急速に醒めていく二人の笑顔。冷えるとかそういうレベルではなく、ほとんど瞬間冷凍。このキンキンに凍ったカプリソーネ、焼却炉脇に置いても2日は溶けそうにない。なんだなんだ私が何をしたっていうんだ。
ふと二人の氷結しきった視線の先が、私の手元に注がれていることに気がつく。私は先ほどスーパーで買った、シールが貼られただけで剥き出しの生姜を握っていた。生姜を片手に鼻歌混じりで歩きながら「地元民」であることを頑なに否定する男に、二人の瞳は”この稀代のホラ吹き野郎。ファック・ユー、いやファック・おまえ&ジンジャー”と語っている。
その日、どういうわけかK君は料理に生姜を使わなかった。