立川談春独演会(ブディストホール)

初めて見る談春の落語は「文違い」と「芝浜」の二席で、至極真っ当で折り目正しい古典落語。飛び道具的銃弾がないため私の心は打ち抜かれないなーと思っていたら、全身全霊博打打ちの談春が抱える濁った魅力というか、薄暗い色彩の華が徐々に効いてきて、「芝浜」を見終わると大層いい塩梅に。急遽近所の居酒屋に寄って、鯵のたたきを肴に冷やの酒を飲んだ。
それよりも特筆すべきは築地本願寺内にある会場のミステリアスぶりである。2階ホールの下は結婚式場の待ち合いロビーになってるらしく、物販物として数珠や紅白饅頭や読経テープや「聖教新聞」を凌ぐ啓蒙マガジン「築地本願寺新報」や、仏教徒御用達香水「オートトワレ『聖』」の姿が。その訳の分からなさは会場内にも及び、寒い天候の築地で「芝浜」と客が感情移入するのに絶好の条件にかかわらず、空調は激しくレッドの側にオン。会場は『ザ・ガマン』決勝ビニールハウスに匹敵する暑さに包まれ、談春は汗を拭いながら大晦日の風景を演じる始末だった。
その勢いに圧されたのか、配られたアンケートの質問「温泉場で開く談春の落語会ツアーに参加したいか?」に対する回答は「1・したい 2・絶対したい 3・してもよい 4・したくない」という謎めいた配置に。このリズムだと「3・絶対したくて体が火照ってるの 4・というか、もう温泉にいる」の順番でしょうに。寺で見る落語はどこか磁場が狂っている。