チュッパチャップスは一度串揚げてから舐める「サライ」の読者

大阪での打ち合わせが終わり、ふらふらと串揚げ屋へ。ちぎったキャベツを口に運びながら常連と店員の話に耳を傾ける。
「週末にキャンプ行くんだよ」
「へーいいねえ、どこ行くの?」
黄河」(周囲の常連だけ爆笑)
黄河? ダメダメ。汚くて泳げないよー」
「じゃあ揚子江」(周囲の常連だけ笑い吐き)
オオサカンジョーク炸裂。私も臀部にマジックで目と鼻を描き、肛門を開閉させる笑いで対抗したものの、いかんせん何が面白いのか分からない。パンツを履きなおして席に座り直すと、店員の女の子が胸に「ヤン」の名札をつけていることに気づいた。日本語が流暢すぎて気がつかなかったが、彼女は中国人だったのだ。常連ともすっかり打ち解けているようで穏やかな空気が店内に流れている。
その時、暖簾をくぐって不穏な空気が滑り込んできた。入ってきたのは水島新司真樹日佐夫を足して5で割ったような、しがなさにも程がある中年男性。足取りから酔っているのは明らかで、白目も黄色を含めて充血し、瞳がなんともマーブルな具合に。それに続いて入店した化粧の濃い女がカウンターに座る。水島日佐夫がホステスの耳元で囁いてるのがぎこちない中国語であることから察するに、おそらく近場で働く中国人ホステス&客の組み合わせなのだろう。水島日佐夫が重たそうな顔を上げてヤンさんに呼びかけた。
「なあ姉ちゃん……この店、韓国料理はあるか?」
全くもって泥酔してるのだった。店先に「串揚げ屋」と大書されてるのに。串をあげるトレイが目の前にあるのに。横と前を中国人に挟まれてるのに。それでそのリクエストは。
「それでそのリクエストは」と私は肛門で注意したが効果はなし。するとカウンター内でさっきまでにこやかに仕事していたヤンさんの顔が突然険しくなった。そして一体どこのスイッチがどう押されたのか見当もつかないが、彼女は流暢な日本語をかなぐり捨て、マンガのようなカタコト中国語で絶叫したのだった。
「ココニカンコクリョウリハ、ナイヨオー!!!(最後は完全に「没有」の発音)」
つくづく大阪はずるいと思う。夜の街のあちこちにいろんなスイッチが用意されているのだから。