池袋演芸場7月下席・昼の部(池袋演芸場)

古今亭菊志んがずいぶんと達者で、しかも『あくび指南』を終えた後、高座を去る時の横顔が怒りを漲らせるようでもあり、それでいて「やってやった」感をほのかに漂わせる、関西芸人言うところの見事な”どやッ!? 顔”。さらに驚いたことに、客席でこの不敵な自信以上の光線を放つ者がいたのだった。
寄席では入場の際、出演する芸人の順番を記した番組表を渡すことがルーティーンになっている。またどういう理由か知らないがこの紙切れにせっせと演目を書き込む客は少なくない。そして私の隣の席が、落語が始まった途端、瞬時に演目を書き込み、周囲に「ごめんね俺分かっちゃったの。今のやり取り聞いて瞬時に『代脈』なんだなって。すごいねボク。すごいんだねボク!」と誇示するウルトラクイズ全盛期時代のクイズ王(道蔦・瀬間系統)みたいな男だったのである。そのアピールの仕方は回答が全問終わった後、でかい音を立ててテスト用紙をひっくり返して”どやッ!?”の気配を響かせる偏差値以外すべて0点の日能研少年そっくりで、急遽、私の中に眠る無根拠な「ガリ勉はビートルズにはまりやすい」説の横にイコールで「落語も」の一節をつないだ。
そんな彼が唯一答えを書き込まなかった難題が、三遊亭白鳥によるインド人が自前のエスニックな蕎麦を売りつけようとする江戸情緒と人情味あふれる一品。筆を凍らせる男を尻目に私は「マサラクゴ」と書き込み、グアム機内ペーパークイズを1位で通過。見事パリ挑戦権を獲得した。さあ次は『100万円クイズハンター』でホテル一井の宿泊券を荒稼ぎだ! というか白鳥が得意とする前座時代の壮絶な貧乏自慢、あの悲惨なエピソードだけで『お笑いウルトラクイズ』優勝できるんじゃないか。