RGvsハブ〜ジャッジ熊谷〜聖地シアターD決戦2011(シアターD)

「あるある」に魂を売ったアングラ芸の売国奴・RGと、大喜利、軟体芸、トリオの将来性など、全方向になしなしを撒き散らすBコース・ハブによるお笑い界の宗教戦争「RGvsハブ」。今年は同日に開催されたフジロックの「アトミック・カフェ」と呼応するかのように、「照明は懐中電灯1本だけ」「ライブ中は空調オフ」という脱原発色を旗幟鮮明に打ち立て、赤褌(RG)と肌着一枚(ハブ)に身を包んだ制服向上しない委員会が3・11後にあるべきお笑い観を提示した。
という心底どうでもいい深読みが二番底からどうでもよくなるほど空調を切った場内はサウナ然として、まるで巨大な反省房に。しかし次第に意識が溶解してくるや、前席にいたゲラfeaturingブスの過剰なリアクションもいい具合に感じてしまうばかりか、か細い懐中電灯の光がハブのルネサンスな肉体に陰影を落とし、あろうことか下から照らしたRGの顔に300%の凛々しさまで刻みつけるのだった。
さて今回は従来の100番勝負にすれば、演者と客の中から死者が出るか、モラルの低さが通報必至と察知したのか、2時間の限定対戦に。今覚えているだけも、ハブが肩の骨を鳴らしRGがポータブルのオーディオで「シーズン・イン・ザ・サン」を流すも、やってみたらびっくりするほど何も残らなかった「シアターDのどこからか音を出してみよう対決」、本当に実物を知ってるのか怪しくなる「オリエンタルラジオ・藤森になってシアターDをうろつく対決」、ジャッジ熊谷が化け物が経営する蕎麦屋に入っていくフリがエンドレスに続く「のっぺらぼう対決」、そしてハブに一点の曇りもない狂人が憑依して舞台で金切り声をあげるや、客を笑いのトランス状態に持っていった「ウルトラスーパーハイパー「アルシンドになっちゃうよ」対決」など、今日も伝説と粗相を履き違えた名勝負が量産されていく。
そして2時間後。舞台に照明が灯り空調が再び流れ出して、「明るさへの感謝を川柳にのせて表現しよう対決」でハブが勝利を収めると結果発表へ。引き分け13。RG20勝。ハブ21勝! あたかも最後の対決で首の差ひとつかわしたように見えたが、実のところ開始早々の「ジャンケンポン対決」「あっちむいてホイ対決」「叩いてかぶってジャンケンポン対決」という笑いのスキルが問われない3連戦でハブが3連勝したこと。それがこの夜の勝負を分けた全てだった。
しかし本当のフィナーレはここから訪れる。本日の戦いを両者が振り返り、興行が終わろうとしたその時、ジャッジを任されたガリットチュウ・熊谷があろうことか落涙したのだ。
なぜ泣いたのかは分からない。しかしそれがどんな無益でことであろうと、評価されなかろうと、全てをやりきった昂ぶりが男の魂を揺らすことはどうしたってある。名誉も金銭も求めずただ笑いのために戦うRGとハブに、熊谷の感情が堰を切ったのではないか――
だから詰め掛けた観客全員は熊谷の涙を見て思った。
「はあ!? あんた突然何泣いてんの!?」と。
私の横にいたTスポのM本さんが「世界一共感できない涙ですね」と呟いた。私も深く頷いた。舞台を見上げるとまだ熊谷の瞳が潤み、RGとハブの体が汗でぬめぬめと光っていた。観客の意識はもはや終電の時刻に飛んでいる。