兎の眼。義眼のバニーガール

松尾スズキ監督『恋の門』の主役ってソラシドの本坊?

石原慎太郎の半生を追ったノンフィクション・佐野眞一『てっぺん野郎』を読む。
私は石原慎太郎が嫌いだ。デリカシーがなさすぎるから。
とはいえ案の定な唯我独尊ぶりが描かれるこの本は大作なだけあって、微笑ましいエピソードもいくつか。
湘南高校を休学していた慎太郎の行動。「「自己劇化」の衝動に駆られ」「自分の描いたスケッチを、当時、自分の唯一の理解者だとして信じて疑わなかったジャン・コクトーに送ろうとした」。
作者は”これは自己過信というより、もはや完全な自己狂である”と断じているが、そんな小難しいものではなくて、ただの”莫迦”である。知能や教養では対応できない、青春ノイローゼの麻疹にかかった莫迦
そんな意外な人間味を見せる水島新太郎じゃなかった石原慎太郎は数年前、小樽にある母校の小学校の100周年記念講演会に招待された。まずは故人になった恩師の家を弔問し、五体投地で礼拝するという衝撃のツカミを展開すると、文学館や宴席など訪れたあらゆる全ての場で、関係者を怒鳴りまくる小粋なアバンチュールを謳歌する。
その剣幕に震えたPTA関係者が恐る恐る公演料を訊ねると、慎太郎は「母校の100周年におカネ取るはずないでしょ。そんなカネがあるんなら、本でも買って図書室に石原慎太郎コーナーでも作りなさい」と笑ったという。
ここまでは”悪いように見えて実はいい人”の常套エピソードである。しかし注目すべきは結びの一文。
「後日、そのPTA関係者が本のリストを送ると、これだけは絶対除外しろ、といって灰谷健次郎の著書を指定してきた」
なぜ灰谷健次郎嫌いなのか一切の説明なし。『兎の眼』ではなくて、チムポを障子に突き刺す『太陽の季節』や、輪姦した女の子を最後は崖から突き落とす『完全な遊戯』を子供に読ませろということか。大体、こんな小説書いておいて有害図書指定も何もないもんだ。
ところでどうでもいいことも執拗にかき回す佐野眞一は、この本ではテーマと限りなくつながりが薄い樺太ベトナムにまで足を伸ばしてる。スケールがでかい無駄足。