すべての武器を楽器に。武器つきの楽器に

下北沢の場末に佇む沖縄料理屋。店の一画で険悪な空気が流れているのは、先ほどから私とビーンズ遠藤が口論を続けているせいであった。
その内容とは「巨人のクロマティがドラムを叩いていたバンド名は何だったか?」
クロマティ・バンド”を主張する私に対して、”クライム”を譲らないビーンズ。食べ終わったてびちの骨を投げあうも、これでは埒が明かないと私は後輩のIに電話をかけた。「荒井注の最終学歴ですか? 二松学舎大学ですよ」とさりげなく口にするほど無駄な情報の倉庫で、日本で唯一エシュロンに通じている男である。
「ちょっと忘れましたね。調べるので5分ください」と快諾したIの電話を待つこと5分。時間かっきりに私の携帯電話が鳴った。
「やっぱりバンド名はクライムみたいです」
「本当に!? ドラムがクロマティ、ギター担当はヒルマン監督。マムシ柳田が歌って、木田が似顔絵を描くあのバンドだぞ?」
「そんな編成じゃないですけどね。クライムで間違いありません。ちなみに……」
「ちなみに?」
「今調べたところによれば、映画監督の青山真治は昔バンドのUP BEATにいたそうです」
前と後の話題をつなげることもなく、さらに後付けで前の話がかき消されるほどの衝撃的な情報。これほど誤った「ちなみに」の使い方を私は他に知らない。投げ合って床に広がったソーメンチャンプルを拾って、私たちは店を出た。