志の輔らくご(PARCO劇場)

初めて生で立川志の輔の高座を鑑賞するため、馴染みのないPARCO劇場へ。以下、公演の仕掛けと『ポートピア連続殺人事件』の衝撃の新犯人が明記されているので、これから見る人は注意を。
当日券を求めたところ、与えられたチケットはなんと補助席ながらも前3列目。喜んで劇場に入ったのだが、補助席は縦一列に並んでおらず、前方の固定席と階段の間に生まれた奇跡のようなスペースに一席だけが押し込まれているだけ。荒野にぽつねんと置かれたスケベ椅子に座る心境で、幕が上がるのをひたすら待つ。
やがて舞台にスポットが当たり、志の輔師匠が登場。舞台角の一画にやけに厳しい目を送るので不思議に思っていると、発した声ががっつり掠れているではないか。マクラもいかにも調子を探りながらという感じで、場内に柔らかい緊張の空気が流れる。とはいえそこは落語という線の演芸の力で、話が進むごとに空気がなだらかに解けていくのだった。
演目は昔話の解釈をめぐる「こぶとり爺さん」とママさんコーラスの混乱を描いた「歓喜の歌」。後者では噺が終わると(これ以上読むとボッコちゃんの正体が書いてあるぞ! 覚悟はできてるのか!?)背面の舞台が割れ、突如現れたママさんコーラス隊が「第九」を熱唱するという衝撃の仕掛け。それよりすごいと思うのはこれだけ派手な演出をしておいて、その後、古典落語で締めるという矜持である。
最後に披露した落語は人情噺の「浜野矩随」。浜野矩随とは人名そのもので、要はバンドとボーカルの名前が同じボンジョビみたいなもの。主人公がワールドツアーを成功させ俳優に転進するくだりでは場内すすり泣きだ。人情噺は好きではない私も、「鼠穴」やら「文七元結」やら、志の輔師匠が演じると朗々とした声のせいか、ぐいぐい引き込まれるのだった。たいへん満足度の高い舞台に。
ひとつ気になったのは開幕寸前に観客に注意を促す場内係員の態度を、志の輔が軽く茶化したところ、中入り後、係員は涙にむせんでアナウンスがまともにできない事態になったこと。あれは歓喜の涙だったのか怒りの嗚咽だったのか今でも謎だ。『ポートピア連続殺人事件』を解く彼女に、誰かが犯人はヤスであると教えたのかもしれない。