焼酎(丙種)が置いてある店

先日、女性が一人でもくつろげる隠れ家的ダイニングバーとして紹介した、代々木上原の焼き鳥屋「I」。日曜夜に赴いたところ、Mr・Iに負けない素敵なダンディを発見した。
カウンターで焼酎ロックを傾けるお父さんは、いい具合に酒焼けした顔を持つ約60歳。黄色のトレーナーに白いワークパンツは全体的に煤けた色で、その足先はといえば靴を脱いで椅子の上で胡坐をかくブリティッシュ・スタイルだ。ものすごいスピードで焼酎をあおりながら、コンニャクの刺身をつまんで、「よう。このコンニャクぬるいな!」とカウンター中の女将に檄をとばしている。女将もそれに応じて、
「どうせ冷たかったら冷たいって言うくせに……そうそう、Sさんがこないだくれた文化包丁」
「おッ、どうした。使ってる?」
「大根切ってたら、柄から刃が抜けたわよ」
紳士の脇に積まれた、読みかけらしい書籍はどういうわけか『がんばれ!キッカーズ』の2・5・7巻。そして店を手伝いに来た女将の娘にSは「おまえのオチチが発達したのはいくつの時だ!」と小粋に挨拶し、「最後の一杯」と頼んでいた焼酎の注文は輪廻のように繰り返されるのだった。
これは閉店までいる勢いだなーと眺めていたら、新たに入ってきた常連客がSに一枚のカラーコピーを手渡すや、その形相は一変した。覗いてみると、法被(はっぴ)のデザインが何点か並んでいるだけ。しかしSは陶酔した口調で「いいな……」と呟いて、店をあとにしたのである。このスラム街で神輿(みこし)の持つ重要性が未だに分かりません。
繰り返すが、この店で若い女性が一人でくつろいでいる姿を見たことはない。そして私的代々木上原ランキングの第1位は本日も北沢拓也先生。