花輪が球場を囲むオープン戦

仕事が片付いたので神宮球場でオープン戦・ヤクルト‐巨人を観戦する。昼間からビールを傾け、天気もおおむね良好。芝生が光る天国だ。
試合は3点差をつけられていた巨人が9回表に猛反撃して4点を叩きだすと、その裏のマウンドには河原純一が登場した。私はアンチ巨人である。今日も腰を下しているのは、ヤクルトを応援するライトスタンドだ。しかし河原は……するとその時、厚い雲が立ちこめ、球場が唐突に翳った。
というのも私は厚木高校というスポーツが全く盛んでない県立高校に通っていたのだが、在学中に野球部が層の厚い神奈川県大会で次々と勝ち進んだのである。躍進の原動力は、投手だった川村丈夫(現・横浜ベイスターズ)。しかし準々決勝で延長16回の投手戦に敗れ、野球部は散っていった。相手チームは同じく地味な県立高校の川崎北。そしてそのエースこそ、河原なのだ。
その力投する残像が目に焼きついていたから、私は河原が何度となく救援に失敗した時も、ソープ嬢と婚約破棄した時も冷たい目を向けなかったし、その前にソープ嬢と婚約した時、いやソープに通っている時から応援をしてきた。
だから抑えろ河原。私は心の中で密やかに祈る。
すると河原は一軍半の打線に捕まって4連打を浴び、1アウトも取れずに2点を失うと、堂々の逆転負けを喫したのである。
ワンモアタイム。すると河原は一軍半の打線に捕まって4連打を浴び、1アウトも取れずに2点を失うと、堂々の逆転負けを喫したのである。喫したのである。
野球に疎い人に説明するなら、飲食業でアルバイトに「そのテーブル拭いといてね」と優しく頼んで、5分後に戻ったらバイトが吐瀉物をぶちまけたテーブルに突っ伏して眠っているような意外性&背信行為。
せつない。せつなすぎる。私がせつなさを殺せないでいると、さっきまで空を蔽っていた雲が流れ、再び球場に陽が下りてきた。その柔らかい午後4時の光が、ベンチに向かう巨人の選手に長い長い影を落とす。誰よりもやるせない気持ちであろう河原。その姿だけ、影がなかった。