池袋演芸場 六月下席・昼の部

ふと寄席へ。好みだったのは柳亭市馬「粗忽の使者」、柳家三太楼井戸の茶碗」など。あとご機嫌なまでにアホらしかった三遊亭白鳥の「びっくり江戸前回転寿司」。なんだこのタイトルは。演目から伝わる通りに白鳥は王道の異物らしく、後から出てくる芸人のマクラでことごとくネタにされていた。目当ての柳家喬太郎は「ちりとてちん」で、口中に雅な毒豆腐が混入されては悶絶する顔芸が壮絶。鼻から上がMrビーンによく似ていた。
さて衝撃を覚えたのは、奇術の花島世津子である。極上の和菓子風味の化粧に衣装がサーモンピンク上下というセル画の国から現れた彼女は、つなぎのトークで「今日は空席以外満席で……」と戦慄の寄席ジョークを開陳。「別嬪さん別嬪さん、一つ飛ばして別嬪さん」「ブサイクといえば……君の嫁さん元気?」などのベタは若手の漫才師によって一周回ったギャグとして消化されているが、実際のところ目撃するのが難しいバーチャルな存在だ。それが全く汚れていない純正の形で見れるなんて。”場所が分からない池袋演芸場””客が誰もいない昼の末廣亭”も、落語家の中でもはや形骸化されたギャグと思わせつつ、足を運んでみるとその現象がリアルに存在したりするものだ。寄席には伝説が眠っている。その目を覚ましていいかどうかはよく分からないけれど。