孤児が夜中に口笛を吹くと親の死に目に会えない

教育テレビの海外ドキュメンタリー「世界口笛大会」を見る。タイトル通り、世界の口笛愛好家がアメリカの世界大会に集結し、その技巧を競うという内容だ。高専ロボコンスペリング選手権など、傍から見てくだらない感がある大会でも、いやくだらないからこそ本気で取り組み全力で戦う様は時に胸を打つ。
「知ってた? 昔、口笛はオーケストラをバックに披露されていた時代もあるんだ」と出場者の一人は熱く語る。過去、口笛は楽器として認められていた。「それが今や何かに呼ばれる時は、お笑い芸人と一緒。今や色物扱いなのさ−−」彼は悲しそうに俯いた。その彼は赤い水玉の蝶ネクタイをしている。その横で頷く老人が着ているのは、胸に「WHISTLE(ホイッスル)」の字が刻まれたトレーナーだ。
そして予選が終わり、審査員票を開票するとトップが二人並ぶ事態に。急遽。同点決勝としてもう一曲演奏して雌雄を決することになった。そのうちの一人、オランダからやって来たヘールトは頭を抱える。彼は連れの女性に相談を始めた。
「どうしよう、2曲やるなんて思ってなかったら準備してなかったよ……。ビージーズなんてどうだろう? アメリカっぽくないかなあ。うーん、クイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』は? (ピーピロピロ)今ひとつだね。アメリカ国歌をジミヘンのスタイルで吹くと……(ピュピュピュピュー)ダメだな。あッ、でもオーソドックスなアメリカ国歌は使える!(ピューピュロピューピュー)ここで感動の涙。(ピュカピューピュピュピュー)」
胸に手を当てながら一節吹いた彼は「よし、これで行こ!」とおそろしく軽く決断して、立ち上がると煙草を一服。気持ち良さそうに煙をスパーと吐きだした。喉頭の管理はいらないのか。
そしてヘールトはステージに立つ。適当に選択した国歌をピュロピュロ吹きだすと、客席のメリケンは瞳を閉じて立ちあがり、静かに胸に手を置いた。
で、こいつが優勝。なんだこれ。物語の弾力性がゼロ。結局口笛は口笛でしかないのだったピロピロピピー。