大和田BAKU

酔いが醒めていくのがはっきりと分かった。それほどテレビで流れていた野沢直子トークがつまらなかったのである。
かって野沢直子はどういう出自だか分からないが、どさくさ紛れにデビューして気がつくとそこにいるタレントの典型だった。しかし彼女が他人と違ったのは、そのお笑い身体能力。「ポッと出」「声がデカいだけ」「品がない」の批判を浴びながら、番組に出れば気がつくと笑いをモノにして主導権を握っていたのだ。それはまさに相手の懐にいきなり入ってワンパンチでのしていくファイトスタイル。笑いのセオリーもままならないのに、直感でリングをかけ巡るあの姿。思い返しても実戦で負けた記憶が浮かんでこない。
それが今、深夜番組でMCの国分と井ノ原の懐にすら全く入っていけない姿を晒している。かって鉈のような破壊力を誇った”大声で品のないことを叫んでみる”も”聞かれてもいないのに旦那との性生活をあからさまに告白”も、テンション芸やタレントのカミングアウトが横行した今では錆びたカッター程度の切れ味で、ジャニーズの二人は無理からの大声で笑って場を取り繕う始末。野沢直子は時代から遠く引き離されていた。重なって見えるのは、数年前は隆盛を誇りながらも今や総合格闘技で通用しなくなったグレイシー柔術。どんなアイドルでも最低限のタックルの切り方ぐらいは知っている時代ということを、野沢はかって敏感だった皮膚感覚で理解できていない。
しかし野沢直子が終わるのはまだ早いだろう。だからかってのプロレスラーが欧米に、最近では桜庭和志がブラジルに向かったように、海を渡って武者修行すれば勘を取り戻すのではないか。つまりアメリカに遠征して、年1、2回、日本に帰ってきてその成果を披露すればいい。野沢直子の才能をもってすれば、ボコボコにされることがあっても絞め殺されることはあるまい。まさか勝てるなんて思ってないだろうし。まさか勝てるなんて。