世界のナベアツ(シアターモリエール)

2001年9月。ジャリズム解散後、影をひそめていた渡辺鐘は本多劇場で単独ライブ「うるとらすちゅ〜ぴっど」を開催した。それを劇場で見た私は壮絶なアホさに感動。公演が終わるなり下北沢駅前に飛び出し、「この才能が表舞台に立たないなんておかしいだろ!」と復帰を懇願する署名運動を開始した。噂ではあの活動が今Save The 下北沢として結実したと聞く。
それほど思い入れのある渡辺あつむ単独は今回「ひとりかくし芸大会」をモチーフにアホの背骨が一本通った小ネタを次々と展開。コスプレ写真館や利き枕、ジャム瓶の蓋を開けるのに奔走するコントなど、どれも面白いのだが天才にしては内容が小粒だ。”才能の発露”だった前回の単独に対して、放送作家業で忙しいのか、今回はどうしても出涸らし気味に見えてしまうのである。ジャム瓶ネタよろしく、口の上のヒゲがあの狂気に蓋をしている気がした。
そんな軽い消化不良を起こしているところ、最後の最後に挑戦したのが「全裸でチムコを見せないようにヘッドスプリング」する芸。渡辺あつむ37才。作家業も好調で裕福な暮らし向きらしく貫禄も小腹も出てきた。なのにこれ。少し考えれば分かるが、大人が舞台でやることではない。やっぱりあんた最高だ。結局挑戦は成功し、満面の笑みを浮かべる渡辺の存在をかき消すように舞台は暗転していった。とはいえ「成功してよかったね」と客席は祝福ムード一色で拍手していたけれど、私の視界が一瞬捉えた、舞台上をマッハの速度で横切る謎の未確認飛行物体・OINARI-SANは錯覚だったのだろうか? それ以前に「全裸でチムコを見せないようにヘッドスプリング」が成功することがめでたいのかどうかが大きな疑問だ。とりあえず来年の本家・かくし芸大会では、マチャアキ御大による挑戦を心待ちにしたい。