村越周司の出張ギャグ屋(都内某所)

ケンドーコバヤシの元相方である村越周司。古くに芸人からは足を洗ったが、今もなお得意のギャグの世界だけお笑い界に片足を突っ込んでいる。その活動は村越のサイト「もうギャグしかしない」で確認可能で、関西を中心としたライブイベント、DVD販売、まさかのブレーン募集まで展開し、中でも本人が強くプッシュしているのが「出張ギャグ屋」だ。1万円+交通費を払えばギャグ15発を届けてくれる、大阪が生んだ新たなデリヘル業態。その催しの噂を聞きつけた私は、花火大会で浴衣姿がさんざめく東京の街を抜け、おそるおそる会場に向かった。
場所は都内某所のカラオケボックス。どこからか湧くように現れた十数人の客が肩を寄せ合う中、村越はひょろっと姿を現した。そして広くない密室の壁に背をぶつけながら、上方演芸界を震撼させた15のギャグを放出。ギャグと笑い声の隙間を、隣のボックスで野郎ががなるレッチリやボンジョビの歌が埋めていく。
あっという間に充実のライブが終わると、村越はすかさずテーブルの上にTシャツやDVDを並べて物販を開始。客とコミュニケーションを図りながら、「子供二人おるから生活費稼がなあかんのですよ」「東京でもライブやりたいですね。でも交通費が結構かかるでしょ」「あれ? ギャラもらいましったけ?」と終始ゼニの話題を切らすことはなかった。そこにあるのはメッセンジャー・あいはらのようなメディアによって増幅されたエグい人間性ではなく、肉眼で目撃できる”生活”そのもの。ギャグ(表)と生活(裏)の関係を築く普通の芸人と違い、ギャグと生活を隣り合わせに生きる男なんだな、と感じ入っていると、いつしか村越が姿を消している。あわてて部屋を見回したら、村越は部屋の隅にしゃがみこみ、物販で売り上げた現金をせっせとデイパックのポケットに詰め込んでいた。それも直に。あんな蓄財法、今時テキヤしかしないよ! もしかすると彼は花火大会の会場を間違えて、ただカラオケボックスに迷い込んだテキヤだったのかもしれない。この日、私は屋内で15発のいびつな花火を見た。