Nの方向(湯島天神)

The Geeseがからむコント集団の公演へ。HPに記された「湯島天神にお参りに行ったら二階の和室で男の子たちがコントをしていたので覗いてみたら少し面白かった、ぐらいの公演になる予定」の言葉以外、何の予備知識もなく和室の会場に上がると、いきなり客席に不条理演劇の中興の祖ことベケット日本支部長・別役実がいて度肝を抜かれる。
迂闊に笑おうものなら、のちのち別役エッセイの俎上にさらされることは必至。ここはひとつ私も「お笑いと演劇」「畳の上でコントをする不条理さ」「見つかりにくかったり交通のアクセスが悪い場所を会場にしては観客をフルイにかける事務所ASH&Dの指針」について考察を重ねてニヒルな姿勢を貫こう。と思って舞台を見ていたら、演者の一人が十数年前よく顔を合わせていた知人である事実に気づき、本殿から転げ落ちそうになる。「お笑いと演劇」とか「畳一畳に対して必ず陰毛が一本落ちている不思議」とかもうどうでもいい。驚きを前に考察は無力だ。
その他の小さな驚きとしては、春山優という役者が素と演技の境界線が曖昧な荒川良々系の存在感で、客からも共演者からも面白がられていて、事実たいそう面白かったことや、公演最終日にThe Geese・尾関が再びアキレス腱を切った情報などが。ついにお笑い界初の脚に爆弾を抱えるコント師「ニー(膝)の方向」の誕生か。膝のスペルがkneeというのも何となく不条理ではある。