五反田団といわきから来た女子高生「あらわれる、飛んでみる、いなくなる。」(アトリエヘリコプター)

五反田団のHPによれば、「福島県いわき市にある高校の生徒さん、先生がたと今年の夏に一本の芝居を作りました。それが凄く面白かったので東京でもやれないかと画策し上演にこぎつけました」という演劇。内容は「福島県のとある町に怪物がやってくるのだが、私たちにはそれよりもいろいろと大変なことがあるのだった」というもので、これがショックを受けるほど面白かった。世界ができあがっていて、観客が各々の好きな箇所で笑っているのだ。私は劇の終盤、額をつき合わせて泣く女子高生が漏らす一言で、10秒ぐらいずっと笑っていた。正直、何から賞賛していいか分からない。まいった。
いわき市。私が会社員だった頃、いわきに担当店を持っていた先輩が、男のリビドー解放に全面協力してくれる女性店員と知り合ったことがある。酒が入ったらもう誰でもウェルカムの天使だというのだ。「今度、鈴木もいわきに連れていってやるよ」先輩は言った。「そしたらその子を紹介してやるから」
そしてしばらくして届いたのが、その店が売り場を改装する大吉報である。誰か手伝いが必要だという話になり、私が歓喜の涙を流していると、普段出張を厭う上司がいわきに喜び勇んで向かっていった。これが私のいわきに関する思い出の全てだ。
あれから長い時間が流れた。宝くじ売り場が有名だった地場百貨店の大黒屋はもうない。でも今日、私はそれほど見ない演劇で、大きな宝くじに当たった。ちなみにあの思い出はあまりにも悔しすぎて、会った事がない女性店員の名前を私はいまだに覚えている。あらわれないし、飛んでもみないけど、いなくなった。