コラアゲンはいごうまん アインガングライブ(アインガング)

2007年末、フジテレビで放送したノンフィクション『売れない食えない笑えない』は、WAHAHA本舗所属の売れない芸人を追った” 哀切”としか言いようのないドキュメント。私はこの番組で初めてコラアゲンはいごうまんという芸人を知った。芸歴20年。売れないのにお笑いにしがみつき、大阪吉本に10年在籍していたから人一倍プライドは高い。そして呼ばれた宴会の営業では酔客から無視されて心がサッキリと折れ、楽屋に引き上げるや虚ろな目で煙草をふかし、打ち上げでは暖かい言葉をかけられて号泣する様子が撮影されていた。あらゆるスベリをおいしくいただくスベリマニアの私でさえ、「こりゃまずいだろうよ」とテレビの前で絶句したことを覚えている。
それから1年半。あの濃霧のような負の印象に反して、「コラアゲンはいごうまんはデキる芸人だ」の噂をあちこちで聞くようになり、いよいよ私もライブへ。会場はマスターがWAHAHA本舗の若手を猛烈支援しているという森下の喫茶店。そしてライブの常連が多いのか、ネタの前から客席の空気もすでにできあがっている。「WAHAHA本舗」「圧倒的なホーム感」の要素に、私のゴシップレーダーが過剰反応して不安は募るばかりだ。
そして始まったコラアゲンはいごうまんの漫談は「探偵ナイトスクープmeets落語」とでも言うような(決して桂小枝という意味ではない)、体験ノンフィクションコメディ。WAHAHAの総帥・喰始先生から「ヤクザの事務所に寝泊りしろ」「宇宙人に会って来い」など、江戸前の小粋な指令をいただいては実行に移し、遭遇した出来事をライブで喋るのだ。はたしてどんなもんかと勘ぐってたら、これがびっくりするほど面白いのである。その心根は「こないだ同期と傍聴に行ったんですよ〜」とネタ収集型フリートークかます若手芸人と何ら変わりはないのに、売れてないことで発する負荷の重さと鬼気が根本から違うのである。
この日の話は「両国の交差点にある建築物の謎を解く」と「始発から終電まで山手線に乗る」の二本で、特に山手線話は、何も起きないので自分からアクションを仕掛けていき、結果、大物との出会いから図らずもイイ話に昇華していく流れが圧巻だった。ラジオの深夜放送で今週起きた話が盛り上がりすぎて、ハガキコーナーを全部すっ飛ばしたような鮮度&スピード感。そしてテレビはおろかライブで10分20分やっただけでは収まらない密度。この舞台を見て何も感じないヤツがいたら、お笑いインポである。
ずいぶんしばらくWAHAHA本舗的芸能から離れていたけど、激しく心動かされたので、コラアゲンはいごうまんがネタ見せに通うという「喰始のショービジネスの作り方」サイトを見てみた。「日本ショービジネス界の重鎮」と紹介されている喰始のプロフィールに「ここだけの話、新宿二丁目も大好きだ」の一文を目撃して、改めて「WAHAHAって懐深いな」の思いを噛み締める。