肉糞亭一門会〜ちべたい鉄で鼻、叩いちゃろかっ?〜(よしもとプリンスシアター)

肉糞亭は関西落語会における笑福亭、月亭と並ぶ三大亭号。と思ってる人に説明しておくと、肉糞亭とは肉糞亭スポーツこと野性爆弾・川島が、接触した芸人に肉糞亭脇に腐り肉(天津・向)だの肉糞亭アナルバール(劇場の女性スタッフ)だの、ありがたくない芸名を本人の意思にかかわらず命名。そうやって勢力を拡大させている「派閥」というより「ウイルス」にきわめて近い一味である。
さて今回スポーツ師匠はほとんど姿を現さず、弟子たちによるゲームコーナー中心で進行していく。それでも時折挿入される頭のおかしい芝居の中に、南野陽子はいからさんが通る』だの、爆風スランプ『月光』だの、長渕剛『祈り』(どフォーク時代の曲)だの、不穏な音楽を流しては客に安心感を与えないのだった。
そして今回どうしても忘れられないのが、肉糞亭ゴミ喰い(雨上がり決死隊・蛍原)と肉糞亭キャンサー(千原ジュニア)によるイラスト対決。「ライオン」のお題に対し、絵の不自由な男であるゴミ喰いがさらっと描きあげ、あとはキャンサーによる上手なイラストを待つだけの展開になったのだが、何度か絵を書き直していたキャンサーことジュニアが「あれ?」と首を傾げだし、「あかん・・・。ライオン、分からへん」と書き直しとフリーズを繰り返すこと約十分。
私の猥婦はテレビにジュニアが映るや、「怖いよー。笑わないと怒られそうで怖いよー」と体を震わせる愚者なので、「バカヤロー。ジュニアさんはいつでもどんな時でも面白いんだよ! 面白いとか面白くないとか、そんな選択肢なんて俺たちにないんだよ!」と鳩尾に百発のニーを突き上げるのだが、そんな権威に弱い私ですら、「これはまずいものを見てしまった」という気分になる。
迷えるジュニアに対して、「真剣な姿もカッコいよね〜」と尊敬のまなざしを向けようものなら、「おまえ全然分かってへんわ!」と怒られそうだし、「なにマジになってんの? 早く描けよ!」と急かそうものなら、「信じられへん!」とどつかれそうで、結局、客も演者もどんな態度をとっていいか分からないまま、気まずい時間が流れるのみ。かなりの時間をかけてジュニアが異常に線の細いライオンの画を完成させた時、「線、細ッ!」と大声でツッコむ者は誰もいなかった。
今考えれば正解は「笑う」しかなかったのに、あの時、どうして誰も気がつかなかったのだろう? 肉糞亭の舞台は今日も磁場が狂っている。