原一平芸能活動半世紀記念リサイタル(浅草東洋館)

15人で15畳。先日参加した被災地ボランティアで、初日に提供された宿のスペースである。その中で半畳のサイズはあるスーツケースを持ち込んで共同部屋をさらに狭くし、さらにいびきがひときわでかいオッサンがいた。当然、初日から奇異の目で見られるわけだが、何か惹かれるもを感じて、あえて接近してみる。
「普段何してる人なんですか?」
「いやー、それはそのうち分かるからさ」
5日目の夜。作業の疲れがピークに達する中、UNOに興じる20代の学生と無職(つくづく若い人間は無条件にアホだ)に近づくと、オッサンは「ちょっと貸してみなさい」とUNOのカードを取り上げた。何をするのかと思いきや、器用にカードをシャッフルし、鮮やかなカードマジックを見せたのである。「何この人?」と周囲が戸惑う中、オッサンはスーツケースを引き寄せ、腹話術人形を取り出した。
オッサンは芸人だったのである。
それが趣味ではなく、舞台で揉まれていることを私は即座に見抜いた。なぜなら腹話術人形とやり取りする「ボランティア謎かけ」がスベっても、ほとんど慌てず淡々とネタを運ぶからだ。明らかにプロである。そしてオッサンの芸が終わると、大部屋の障子が開いた。芸人がいるという噂を聞きつけた別部屋の集団が駆けつけたのである。そして、松井にバッティングの秘訣を聞く少年のような澄んだ瞳で聞いた。
「あの〜。『笑点』に打ち合わせがあるって本当ですか?」(実話)
さて東京に戻り、そのオッサンこと花島二郎師匠が舞台に立つということで、ボランティア仲間の酔狂な希望者7人を引き連れて浅草へ向かう。公演は寅さんのモノマネでおなじみ原一平先生のリサイタルだ。
普段お笑いロリコンで通っている私だが、久々に見る熟芸人も最高の一言。だってトップバッターの福岡詩介先生が舞をキメて、御年82歳の源氏太郎先生が手を使わずハーモニカを吹く芸をぶちこんで、原一平先生が得意の寅さんはもちろん三橋美智也のモノマネまでかましてくれるんだぜ!
私が興奮を隠せず舞台を凝視すること30分、気がつけば誘ったボランティア仲間全員が姿を消していた。カバンの中のケータイがメールを着信している。確認すると「ごめんなさい、これ以上はムリ。浅草花月に行きます」の文章がまぶしかった。
さて私だけが4時間半に及ぶリサイタルを目撃した後日、花島さんに会うと「こないだはありがとう。誰がよかった?」と聞かれた。
「土方の姿でボードビル芸をこなすやまけいじさんと、ギター漫談のあさひのぼるさんが面白かったです。あさひさんが「そうだろう?」と訊ねると、客が「そうだ!」と叫ぶ、あのコール&レスポンスはたまらなかったですねえ」
「そうでしょ? あさひさんもねえ、あの『エンタの神様』で「自由だー!」とか叫ぶ芸人いたじゃない? 彼にパクられなきゃ、もっと売れてたと思うんだよ!」
あさひのぼる先生。現在ツイッターのフォロワー15名。サバンナ・高橋は先生のことを絶対知らないと思う。