『DEKASEGI vol.1〜逆に東北から笑顔を〜』(しもきた空間リバティ)

地方芸人と聞くと国の規格に合わない特産品と出会えそうな気がして、福島を拠点にするお笑い集団・みちのくボンガーズと、同じく仙台を根城に活躍する集団・ティーライズの合同主催ライブに向かってみる。MCを務める母心というユニットは、ボケがおそらく自身の性嗜好とまったく関係ないビジネスライクな女装&和装を展開する、ばってん荒川イズムをギンギンに感じさせるコンビで、ここぞとばかりに原発ネタをもってくる漫才の腕も相当こなれていて、この日頭ひとつ抜けてウケていた。東京で成功するかどうかなんて分からない。でも案外盲点だった女装による夫婦風漫才は、浅草だったら200%売れっ子になると思う。
さて仙台のお笑い集団・ティーライズの存在は知っていたのだが、福島のみちのくボンガーズについて何も知らなかったのである。どうもトークを聞いていると、福島県の出身ではないらしい。そしてボンガーズとティーライズがそれぞれの実情を語り合うコーナー「地方芸人サミット」(嬉しいことに8割は金の話)で全容を知って驚いた。このボンガーズ、東京NSC8期生が母体だというのだ。
養成所卒業後、神奈川のホテルの余興に送り込まれた彼らは、芝居一座として愛知、さらに福島へ移住したところ、吉本からハシゴをはずされて独立。そして福島を安住の地として活動していたら原発事故が起きたらしい。母心のボケ・嶋川最終回いわく「震災が起きた日は唐揚屋一日店長を任されて、延々とジャンケンをやっていました」とのこと。今まで「不運」な芸人は山ほど見てきた。しかし「受難」を目撃したのは初めてである。
しかもNSC8期生といえば、みなさんご存知、ジョイマンだの、キャベツ確認中だの、長崎亭キヨちゃんぽんだの、今をときめくスターがひしめく「地獄の8期生」として有名な年頃。この地獄から生まれた受難譚、勝手に聖書に書き込んで労働者階級御用達のホテルに配りたいぐらいだ。いつかのしあがって、吉本の劇場というエルサレムに凱旋を果たしてもらいたいものである。
そんなことを考えていたら、ティーライズ所属の蝶野正洋公認芸人・糸賀清和が「エーッ!(蝶野独特の挨拶) 蝶野さんを知ってる人は手をあげてください! ハアハアハア(蝶野独特の呼吸)」と客に促し、100人以上いる会場で目測3人だけが手を上げていた。糸賀がコンビでツッコミ担当という事実になにより驚いている。