グランジ・佐藤大プロデュース・エンターテイメントライブ・お笑い九龍城〜こんなお笑いライブがあってもいいじゃねえか!〜(ヨシモト∞ホール)

ちょっと完成度が高いライブがすぐ「伝説」呼ばわりされる昨今、昨年行われた「お笑い九龍城」はまごうことなき伝説のライブだった。というのも客席に悪寒が走る瞬間が肉眼で確認でき、その結果、主役であるグランジ・大の心も折れる殲滅ライブだったから。もうひとつの理由としては、あまりに悪辣な内容がよしもとプリンスシアターを閉館に追い込んだという噂が後を立たないからである。
そんな銀河系の彼方に葬られて二度と返ってくるまいと思われていた「お笑い九龍城」が満を持して、というか勝手にほとぼりを冷まして大復活。関係者から漏れ聞くところによれば「前回の2時間は長すぎた。1時間に短縮すれば問題なし」という「ナイフで100箇所刺せば死ぬが50箇所なら元気」に匹敵する無根拠な自信で挑むのだからたまらない。
ライブは前回同様、軍服に身を包んだグランジ・大が、密造酒のように濁った目を赤く光らせて出現。「拍手すんな! これはお笑いライブじゃない! クズ芸人を更正させる強制プログラムだ!」と数日前に鳥取の営業を寝坊で飛ばしたとは思えない威風堂々の演説をぶちかますと、嫌がる若手芸人十数人を舞台に上げ、異常者企画を次々繰り出すのだった。
ジャンケンで勝ち負け関係なしに芸人がバットでひたすら殴りあうカリキュラム「フルスイングでジャンケンポン」はまだ序の口で、「生活笑百科」を模した悩み相談では、トンファー笑芸界史上初・福永法源先生をテーマにしたありがたい法の華漫才を披露。このあたりから果敢に笑っていた客も距離を置きだすが、グランジ・大は意に介する様子もなく、「芸人の行く末は淫行か詐欺」と格言を残したり、「俺はCG。本体は今エクアドルにいる」と主張したり、突然漫画ゴラクに出てくるようなゲスな子分キャラに豹変したりと、全く球筋が読めない絶好調ぶりだ。
そしてコーナーはおそらくこの日の目玉企画「戦国武将の家紋で神経衰弱」へ。パネルをめくると有名武将の家紋が現れる中、一部「×」「×」の字や×の図柄をデフォルメした紋が混じっている。この鎧よりも半纏が似合いそうな意匠は・・・。
「これ家紋じゃなくて×紋じゃないか?」
誰が言ったか、いや、誰も何も言ってないけれど、理解は瞬く間に会場に伝染し、芸人と観客は「このバカのせいでいよいよ自分にも危害が及ぶかもしれない」と心がひとつになった。しかしそんな懸念を吹き払おうとばかり、大は矢継ぎ早に次のコーナー「泣き笑い」を提供する。これは居酒屋「鳥将軍」ではない方の××様関連映像が映るや芸人に泣き崩れろと指示し、一転して祭り囃子が流れるや喜びで踊り狂えと厳命。冷水と熱湯を交互にぶっかける心臓に悪い所業をエンドレスに強要し、∞ホールには教団施設特有のトランス感が満ちていくのだった。
と、混沌のエネルギーをこれでもかと放出した挙句、大は最後の最後、「芸人のシャレでござい」と全てをウヤムヤにしようとしたのか、何の脈絡もなくいきなりひょっとこの顔マネをして幕引きを図った。2012年。ひょっとこ。「どういうつもりだ」という言葉しか浮かばない。それと私の後席では別段笑うわけでもなく丹念にメモを取る青年がいて、終演後、スタッフに呼び止められていた。あのライブを逐一記録して、劇場スタッフでも記者でもないということは、きっと公安だったのだろう。
はたして疲れ果て家路に就こうとすると、劇場出口に軍服の男が待ち構えていた。大だ。サーベルで一人一人斬りつけているのかなと思ったら、驚くべきことにさっきまでの舞台がなかったかのような顔をしてグランジトークライブのチケットを手売りしている。あんな鬼畜系AVが如きライブを見せられられた後、チケットを買う女子なんているのだろうか? 私は私で「刑務所の差し入れは何がいいですか?」と聞く勇気もなかった。
さて公演名「こんなお笑いがあってもいいじゃねえか!」に対する答えは、前回同様「あってもいい。でも人前でやっちゃ絶対にダメ」である。次いつやるのかな。