水谷千重子 演歌ひとすじ40周年記念リサイタル(渋谷公会堂)

友近プレゼンツ”の演歌歌手・水谷千重子リサイタルへ。メディア発信でもないピン芸人のキャラが渋谷公会堂に進出する未曾有の事態にかかわらず、どういう訳か会場にスペシャルな空気はなし。ピンネタを大していじらないまま、友近の芯にある「悪ふざけ」をほんのちょっと拡張させたら、やすやすと大会場に至ってしまった感じだ。
さて川中美幸やら名取裕子やら大御所がゲストに招かれる中、水谷千重子の兄貴分として登場したのが、同じ双葉菖仁門下の八公太郎である。バッファロー吾郎・Aを思わせるこの演歌歌手は師匠のことを当然「オヤジ」と呼び(千重子は「菖仁」)、「うちの実家、この劇場から歩いて3分なんだよ」「今日はなんでも言っちゃうよ。だって渋谷公会(公開)堂だろ?」と抜群の冠二郎フィーリングを発揮。つまらないことを言えば言うほど面白いのに、善良な観客は額面通りつまらないと受け取り、発言の7割をスルーされていた。次第に客席に顔を向けなくなる公太郎。絶好調だ。
そんな公太郎のバイブスは、絶好調のRGにも伝染する。エンディングのさらに締める場面で「水谷千重子あるある」を「ロマンティックが止まらない」に乗せて熱唱していると、会場規模に酔ってしまったのか、最後のあるあるを納品しそこねる事故というよりほぼ刑事事件が発生。世間が望む容量の笑いを、芸人が期待通りのサイズで提供する幸福な構造を「退屈」と考えてしまう私は、最近のRGを追いかけてなかったのだが、久しぶりにいびつで粗悪なRGにときめいた。では僭越ながら、代わりに私が女性演歌歌手あるあるを。「ゴシップの数は少ないが、ひとつひとつの粒が巨大がち」