ハリウッドザコシショウのものまね100連発ライブ(なかの芸能小劇場)
モノマネ●●連発、と聞いて思い出すのは神奈月である。AKB48『ヘビーローテーション』にのせて、序盤からSIAM SHADEがぶちこまれ、中盤に馳浩、長州力、天龍、前田日明の連発で見る者を絶句させたところに、終盤は嵐だのKARAだの露骨な人数水増しでモノマネ48連発を達成する、あのお笑い粉飾決算だ(その後発表された『フライングゲット』の48連発も内容は全く同じ)。しかしそんな更新不可能と思われる偉業に挑戦する勇者が現れた。笑芸界きってのスーパー異常者・ハリウッドザコシショウである。しかも一気に100連発。3連休の初日、子供の面倒を見る約束を反故にして、私は中野へ向かった。
ザコシショウは黒のカウボーイハットにブリーフ一枚、そして肩からタオルをぶらさげるという、まるでランチに出かけるOLがカーディガンを羽織るような気さくな装いで舞台に現れた。このライブは多忙になったバイきんぐとの合同ライブが叶わなかったため行われる穴埋めライブという趣旨が説明されると、そこからモノマネが次々繰り出されていく。「アルバム『√5』のKONTAの立ち方」「グレートカブキの平成維新軍入団会見」「ゲーム『がんばれゴエモン』の敵キャラ「御用だ!」が死ぬところ」「スーパードライのCMのマイク・タイソン」「自宅のCHARA」などなど・・・。
ここで勘のいい読者は引っかかったかもしれない。「自宅のCHARAって何だよ?」と。説明するのも野暮だが、「自宅のCHARAはこうしていると思う」という空想の下、『やさしい気持ち』のメロディで「ハナクソまるめていいですか〜♪」と裏声で熱唱するモノマネである。ここで勘のよくない読者も気づいたかもしれない。「それってモノマネなのか?」と。
たとえば「『キャプテン』に出てくる青葉学院の監督」というモノマネは、おそらくしわがれ声のオヤジが「谷口くん」と言うだけのネタだったと想像するのだが、客の反応が上々だったことでザコシショウがスパークしたらしく、疾患のようにモノマネが止まらなくなり、最後は「谷口くん、谷口くん」と呟きながら谷口に向けて千本ノックを始めていた。そう。それはモノマネというより、“捏造した記憶をデフォルメした何か”もしくは“捏造した事実をデフォルメした何か”なのである。当然、その場に居合わせた観客も「これってモノマネではないよな?」と薄々感づき始める。しかしザコシショウがいきなりダッチワイフを持ち出してライガーボムをキメたり、「Mrマリックのテーマ曲」と称してただただ「♪チョゲ、チョゲ、チョゲ」と口ずさむ光景を見せられた暁には、もうそれがモノマネなのかどうかという区分は一切気にならなくなり、早く100連発を達成して無事解放されることを祈る心境に変わっていた。さらに驚くべきことに、ザコシショウはモノマネがウケると調子に乗って同じモノマネを2回反復し、モノマネがウケなければウケないでしつこく2回反復。結局100連発という小さな枠には収まりきらず、モノマネ約300連発のゴールへ向かっていくのだった。
その後もプロレスとTVゲームを軸にモノマネをガッツリガツガツ繰り出し、序盤用いていた得意ギャグのブリッジ「コス、コス、コス!!!(殺すの意味)」は、どんどんネジがゆるんだのか、最後は普通に「殺す、殺す、殺す!!」と叫ぶ始末。3連休初日の午後3時。私は子供の面倒を見る約束を反故にしてその光景を見ている。風流だ。
気がつけば1時間半が流れ、カウボーイハットもタオルも脱ぎ捨て、もはや達磨大師にしか見えないザコシショウは、用意したモノマネを全て完遂。満足気な表情を浮かべ、「次は1000連発でもやるかな!」と宣言した。ザコシショウなら必ずできるに違いない。だって今日やったモノマネを1つにつき10回繰り返せばいいんだから。そんなことよりも私は今、どんな芸人に対しても寛容なのに、ザコシショウがテレビに映ってると「この人だけは生理的にムリ。チャンネル替えて」と言い放つ妻にどんな言い訳をすればいいのか、考えあぐねている。