早すぎる天才!? 23世紀の喜劇王・キップリンのおもしろさを世の中に広める会(シアターD)

必要以上に完成度の高いモノマネ、小太りなのに敏捷な動き、まるでメッセージがあるかのような態度で自信満々に放つ意味のない替え歌を武器に、NSC合宿に乗り込んでは目が開きかけた芸人の卵たちに「カリスマ」の刷り込みをせっせと行う托卵芸人ハンマミーヤ・一木。その面白さを世に伝播する志のライブに行ってみると、ルナシー「STORM」の替え歌「ドテチン」や、「ぐるぐるカーテン」のオリジナル振りつけ、グレート・ムタエド・はるみを交配させたギャグ「グレート・エド・はるみ」など、数々の名作を惜しげもなく開陳していた。面白いことは確かだが、この芸を発表する場が地下劇場とNSC合宿以外に思い浮かばないのが残念だ。
さてこのライブの肝は、たかだか80分弱のライブに後見人として呼ばれた多くの芸人である。狭い舞台には新進気鋭のチョコレートプラネットから、タケト、ハブ、ナベの旧Bコース揃い踏みまで、キャリアある芸人が約20人ばかりひしめいている。彼らはもちろん一木が裏で小道具を仕込んでる最中トークでつなぎ、一木の出番を迎えると追い払われるフリであり捨て石であり人柱なのだが、このライブでは想像以上のことが起こった。
というのも主役のはずである一木が活躍して客席が暖まった後、さらに西遊記一行やドカベン軍団に扮した吉本地下ライブ四暗刻カルテット(セブンbyセブン・玉城、こりゃめでてーな・広大、とくこ、一木)がここぞとばかりに登場するのである。お分かりだろうか。「一木の面白さを伝えるライブ」と称しながら、一木すらカルテットのつなぎ役に過ぎない。というトリッキーな構成ならまだしも、そのカルテットには一木も在籍する、まるで円城塔が『ドグラマグラ』をリメイクしたような重層的幾何学世界に突入してるのだ。ご飯のおかずがご飯で前菜もご飯のような狂気の盛り合わせに、一木メインのライブなのにかかわらず、「もう一木はいいって」と思えてくる。
結局カルテットはよく知らないままこなしているドカベン軍団のコスプレで舞台を占領し、殿馬の格好で「秘打、白鳥の湖!」とぐるぐる回っている一木に向かって、まちゃまちゃが「今日は私の誕生会があるんだよ。早く帰せバカヤロー」と怒っていた。全芸人と全観客が、それを誕生日の出し物でやればいいのにと感じていた。私は、一木は新日本プロレス後藤洋央紀のモノマネがハマるんじゃないか、と別のことを考えていた。