本坊元児と申します(シアターD)

ツイッターに書き込む飯場の不満がなぜか文学的散文に昇華されるプロレタリア文学芸人・ソラシド本坊のライブへ行くと、3連休の最終日の夜にもかかわらず、ほぼ満席。本人が説明したところによれば、「昨日、笑い飯・西田さんの結婚式二次会で披露したピン芸が、芸歴15年でもっともウケたと言えるほどドハマリ。噂が噂を呼んで当日券が伸びた。相当仕上がってるので、今日は楽しみにしてほしい」とのこと。
さてライブが始まってみれば、数ヶ月前まで土方だった本坊は、華麗な転職をはたして大工にのし上がっていた。本坊ライブ名物の泥臭い工業用語も、「美術大工業界の頂点にある会社はシミズオクト」「電動ドリルといえばマキタだけど僕はリョービ」「大工業界で作業量の単位は人工(にんく)」とキラキラした単語ばかりに。さらに「エレベーターに乗るとヒカリエの搬入を思い出す」「賃金を中抜きする遠藤さんは誰も見たことがない。正体はカイザー・ゾゼ」「死亡事故を目撃した職人は仕事を辞める」など、デートで使いたくなるブルーカラージョークも満載だ。
その他、ゲストに大工道具をレクチャーする企画では、とんねるずがテレビカメラを破壊した伝説さながら、シアターDの備品の椅子に電動ドリルでほんのり傷をつけたり、perfmeの『レーザービーム』にのせて労働の辛さを訴えたり、村田撮影のドキュメンタリー映像で洞のような瞳で海を見つめながら「全然オモんないな」と呟いたり、労働をご飯に、汗と油と腰痛と諧謔をオカズにしたドカメシでおなかいっぱいになる。そして観客は爪の汚れが落ちないことにもはや何も感じなくなった指先でつまようじを取り上げると、歯にはさまった200円弁当のカスを取りながら、明日も仕事だと重い腰を上げて帰路につくのだった。渋谷の夜空を見上げて思うことはひとつだ。「で、西田の二次会でウケた芸ってなんなんだ?」と。