キングカズ自伝『こんな夜更けに「バボラ!」かよ』

遅ればせながら大宅壮一ノンフィクション賞講談社ノンフィクション賞のダブル受賞を果たした渡辺一史『こんな夜更けにバナナかよ』(北海道新聞社)を読む。筋ジストロフィの重度身体障害者とボランティアの日々にふれたノンフィクションは、四つの意味で感動的な内容である。
一つは”障害者の人生、そして障害者とどう関わるか”について言及しているのに、それを超えて普遍的な”人生とは。人間関係とは”というテーマが浮かび上がるところ。普段は深くて暗くて奥が見えない人生という井戸を一所懸命覗いていたら、一瞬だけかざした陽によってその深淵がくっきりと目に飛び込んできた感じだ。
二つ目は圧倒的な文才・物凄い観察力・怒涛の取材精神を兼ね揃えているというわけでもない、地方在住のしがないフリーライターが、対象と真摯に向き合うことでこんな良書が生まれたということ。仲よくできるスポーツ選手にあぶれたら、次はタレントや歌舞伎役者にしがみつくスポーツライターはこれを読んで何を感じるだろうか。ある意味、こちらの方が物書きとしての筋力低下。
以上です小野ヤスシキャップ。……あれ? 最初に四つの意味と書きましたか私。
三つ目は北海道という極寒の地に人が住み、今もなお生活を送っているという脅威の事実。屯田兵スピリッツを失うことない彼らはすごいとおもいます。
よっつめはそのはげしくさむいちで、あえてはだかになってぼくたち(わたしたち)をいやしてくれるすすきののふうぞくじょうのそんざいです。ほんぶんにはいっさいふれられていないけど、「小生、思わず昇天!」とおもうことしきり。なんで途中から小学生文体になったかは『アルジャーノンに花束を』を意識したわけでもなく、自分でも不明。それ以前に見切り発射で掲げた四つの公約を撤回しない理由が不明だ。