格差社会が進み、プレミアムホッピーしか飲まないエリートが出現

大竹聡『中央線で行く東京横断ホッピーマラソン』(酒とつまみ社)を読む。中央線の各駅付近でホッピーを飲める店を探して東京から高尾まで向かう『酒とつまみ』の好評企画を押し倒すような強引さで書籍化した単行本。ボーナストラックとして高尾から京王線で帰る逆マラソンも敢行してます。冒頭でバカバカしいと断っているが、バカバカしいだけでなく、くだらなくて何の意味もない一冊。最高じゃないか。
しかも大竹氏が出演していたラジオ『ストリーム』をチェックすれば、小動物のエサになる動物なみにオドオドした様子で「本当は200ページで終わる内容なんですけど、無理矢理余白入れてページ増やしたんです」と小声で告白する始末。京王線の旅も説得力ある理由なんて何ひとつないのに、唐突に仙川で終わってしまうのであった。仙川で終わるなんて女子大生の物件探しじゃないんだから。言文動一致体の「ダメ」だ。
しかしこの本は「ダメ」のフィルターを通した、数少ないリアルな居酒屋評である。太田和彦が語る居酒屋にはタクシーと一万円札と領収書の臭いしかしないが、大竹聡が綴る酒場は終電と千円札、その間に挟まったはずれ馬券の風景が見えてくる。大体何だよあの太田ってクリエイター崩れは。物々しく語る話が「居酒屋は開店と同時に行くのがいいね。なぜかというとツマミがいっぱいあるから」。酔ってるのか。酔ってるよな。まさかシラフじゃないだろうな。もしシラフなら赤塚先生に叱ってもらうからな。
それに対して大竹は何も含蓄あることを語らない。なぜなら最初から含蓄がないから。またどうしようもない酒飲みと自分を卑下し、随所で言い訳めいた言葉を繰り返す。私の知る限り、酒場とは語るべきことなどない男たちが集まって、それでも中身のない話に興じる空間だ。だから大竹のヨワヨワな視野だけが、居酒屋のあるべき光景を正確なタッチで切り取れるのに違いない。そんな弱さと慎ましさが凝縮されたこの本のあとがきはいい。本当にいい。
そんなことを書いてたらラジオ『ストリーム』のゲストには太田和彦が。日本酒を飲む順番について講釈垂れたあと、学者のような口調で「居酒屋……大体ポテトサラダが置いてありますね」とか抜かしやがった。酔ってるよな。シラフじゃないよな。それ聞いた俺は酔ってないのに吐きそうなんだからな。