陸上競技で乳酸をためた牛乳屋とハムをいためた肉屋

佐藤多佳子『一瞬の風になれ』を読む。物語は3巻の途中でゴールしてしまって、残りは余韻で走ってる。気恥ずかしくなるような真っ直ぐな風に押されて、胸の鼓動が高まりながらゴールへと向かうあの感じ、『スラムダンク』と同じ風が吹いていた。キラキラしすぎてるよ。キラキラしすぎてるなあ。
何がまばゆいかって、小説の舞台が私の地元である神奈川県の県央地区なのだ。『黄色い目の魚』の江ノ島の描き方もよかったけど、まさかこんな特徴のない土地を取り上げるなんて。それだけでもう。登場人物が町田で買い物している、相模大野でマックシェイク飲んでる、海老名駅でデートの待ち合わせしてる、大和の競技場で走ってる、中央林間から田園都市線に乗ってる、相模川でバーベキューしてる、厚木でえげつないホルモンを食べてる、綾瀬市民が物珍しさに電車を追いかけている、町田駅近くのアパートに男が銃を持って立てこもる、町田の公園で主婦が亭主をバラバラにする、町田のちょんの間で一服する。しまった、途中から『週刊新潮』の「黒い事件簿」が混じってしまいました! 「黒い事件簿」で「一瞬の風になれ」のタイトルがあったら、それは風が強い海に他殺体を散骨する話です。100m葬。