ハブ−1GP(シアターブラッツ)

一発ギャグ大会「秒殺」を二連覇し、今、吉本の東京の若手のライブ芸人の間という狭い小宇宙において、本人を含む誰もが“天才”であることを疑わないBコース・ハブ。そのハブが約89万個所有する一発ギャグの中から、真剣勝負でナンバー1を決める一人天下一武道会「ハブ−1GP」が行われた。
大会に参加するのは、熾烈な予選を勝ち抜いてきた32ギャグ。己の身体だけで笑わせるフリーギャグ部門、小道具を駆使したタイツギャグ部門に分けてトーナメントで競う形式なので、決勝進出ギャグは約2時間のうちに5回も見る計算になる。舞台に現れて「絶対に優勝を狙います!」と語るハブの表情も心なしか険しいが、観客はそれ以上に不安でいっぱいだ。
はたして幕が切って落とされると、ハブギャグ界を代表する第一人者「セクシー大仏」がいきなり一回戦で敗れ、会場に「そうか、この大会はガチなのか!」の緊張感が一気にみなぎる。そして審査員で呼ばれた芸人は会場の中央一列を占め、Bコース・タケトの的確なガヤ、椿鬼奴の感嘆、ガリットチュウ・熊谷とBコース・ナベのなあなあな親交、RGの怠慢な言動と数々の粗相が絶えず響いて、会場前方に座った客をホームシアターのサラウンド感覚で楽しませてくれた。
さらに大会は粛々と進み、タイツギャグ部門では、照明が落ちるとか細い電光が舞台に光って80年代SF映画のようなアナログ美を醸し出す「胃カメラ」、下半身の動きがほとんど水流に近い「ストレスでポリープができた胃」などが活躍する中、瑞々しさを前面に出した新人ギャグ「いちご生八つ橋」が下馬評をくつがえして大躍進を果たす。しかしストライクゾーンを見事に再現したギャグ「野村スコープ」がボールの行方で観客を釘付けにするという老獪な手段で僅差の勝利を収め、決勝へ進出した。
一方、フリーギャグ部門では「別角度から見た土下座」「エヴァンゲリオン主題歌の替え歌」「巻きグソ」といった実力者が居並ぶ中、白目を剥きながら出っ張ったモノを押し込んでいくギャグ「何この職業」が第一回戦で大爆発。その後も勝ち抜き、さすがに三回戦になると見飽きて失速するも、準決勝で再び面白く見えてくるミラクルが起きて、乱戦を制した。
そして決勝は「何この職業」vs「野村スコープ」――。約89万個の中から選ばれし運命のギャグ2つ。一体、頂点はどちらに輝くのか? 命を削って戦うハブの姿に、熱気と興奮で会場の温度がぐんぐん上昇していくシアターブラッツ。どちらが勝つのかを見たい。でも、見たくない。そんな複雑な思惑が交錯し、まるで時が止まったような感覚に襲われた――。ということは全くなく、どうも時間が押していたようで、あっさりと決勝をこなして「何この職業」が勝利する。
司会のポテト少年団・菊地に感想を求められたハブは「途中、もしかしたら勝てないかもしれないと思った」と追い込まれた胸中を吐露した。確かに今年はハブが優勝したが、来年この大会が行われたとして、ハブが勝つ、いや決勝に残れる保証は何もないのだ。羽生名人、動物のハブ、ハブ空港の参戦を期待しながら、第二回大会の開催を待ちたい。

さて稀代のRGウォッチャーを称する私としては、「RGvsハブ」で激戦を繰り返し、この日である主役・ハブにとって最大のライバル・RGのこの日の動向にも触れねばなるまい。
まず審査員として呼ばれたRGはカツラ&サングラス&カーテンを頭に巻いて、果敢にも新キャラ・玉置浩二を開陳。「このライブ中にキャラを完成させる」と宣言するも、豊富な洋学知識に比べて知ってる曲が「ワインレッドの心」「悲しみにさよなら」「田園」の3曲だけというていたらくで、場内の失笑を買っていた。しかも終盤は「頭がムレる」という理由でカツラとカーテンを脱ぐと、いつのまにか市川海老蔵に変身。さっそくカーテンをルビーに見たてて「これベトナムで見つけたプレゼントだよ」と海老蔵披露宴の3大名場面を再現したが、結構面白いのに異様なぐらい観客の心に響いていなかった。ちなみに残りの名場面は伊藤英明のスピーチと、「Get along together」を歌った山根康広の最後の振り返りである。