中津川弦・カヨコの結婚報告演芸会(浅草東洋館)

面識のない中津川弦氏から「以前ブログに取り上げていただき、ありがとうございました。このたび結婚をする事になり「結婚報告演芸会」なる催しを行うので、ご都合が合いましたらご招待いたします」という内容の丁重なメールをいただく。どうもありがたいことに、氏は私のことをメディアに顔を出して演芸を論じる御用学者と勘違いしているらしい。もちろん事実を告げることなく、引き出物を期待して浅草へ向かう。
ライブは通常の披露宴同様、新郎の風俗体験暴露話を基調に、新郎新婦ゆかりの芸人がネタを披露していく温かい会合に。中でも圧巻だったのは、最後、新婦のカヨコさん(素人)が両親に向けて読み上げた手紙で、これが家族の機微あり、予想を裏切る展開あり、感動の締めありの向田邦子エッセイのような完成度で、どうにも感動を禁じえないのだった。目を舞台に向ければ芸人も瞳を潤ませている。ニッチェが涙を拭っている。さっき「公開セックス」コールを呼びかけて会場をドン引きさせたナイツ・塙が半べそをかいてる(あんなにスベるナイツを見ることは今後ないだろう)。そしてまさか、浅草寺に届きそうな声量で国体護持&八紘一宇を訴えていた右翼漫談家大本営八俵の瞳まで赤く染まっている。両親への手紙でカヨコさんが皇室という告白はなかったのに一体どういうことだろうか。
ところで個人的に最高だったのは、客の空気をいっさい感知せずに使い込んで黒光りのする漫談を好きなタイミングでねじこみ、客の感性が麻痺した頃あいに十八番の物真似を突きつけてきた、鯉川のぼる師匠である。若手にはほぼ皆無の、馬力で全てを突破する芸を久しぶりに見た。鯉川のぼる師匠は新郎・中津川弦の師匠でもあるので、新婦の挨拶にさぞ涙してるのだろうと探したら、客席にいる芸人やタニマチに舞台上からひたすら目配せしていた。中津川弦さん、カヨコさん、結婚おめでとうございます。

風俗店「メルヘン倶楽部」にはラバー製の天使の輪が置いてある

2012年11月9日。吉本の若手芸人メルヘン倶楽部が解散を発表した。あれから私の胸はざわざわしている。コンビで女装して妖精を名乗るあざとい芸風は、今日にでも明日にでも解散しそうに見えて、見た目より何十倍もしぶとかった。そんな耐久性の高い物件が崩壊するのは、いよいよやって来たお笑いブームの終焉に巻き込まれたから、と思えたからだ。よってこれから若手の解散が続く気がしていたら、どうにもその予感は間違いではないらしい。
ところで半年前に熱い感情で綴ったメルヘン倶楽部の文章が、ワードの中で発酵していたので今頃アップしてみます。俺まあまあ忙しいんだけど、「今頃になってメルヘン倶楽部への興味は尽きない」なんて書いて、一体何やってるんだろう。

月笑(新宿明治安田生命ホール)

ある見巧者から「マセキのライブで見た、新宿カウボーイとオジンオズボーンの絡みが、ただただ声がデカいわりにやり取りの内容が希薄で壮絶だった」との情報を入手する。そんな絡みが見られるかもしれないと期待して、二組が出演する太田プロの事務所ライブへ。
オジンオズボーンは、松竹若手漫才師に脈々と通じる「減点制だと減点されないけど、加点制ではそんなに点が入らない」優しい漫才から、「大幅に減点。でもそれ以上の加点」という肉を斬らせて骨を断つステージへ。ボケの篠宮が颯爽とした佇まい&いい声でクソみたいなダジャレをゴリラのクソみたいに放り投げまくった挙句、「AKB」のボケが「あくび」「空き部屋」「アッカンベー」。これで超絶面白いって、なんだそれ。さらば青春の光といい、うしろシティといい、新宿角座に漏れこむ階上焼肉屋の煙が松竹芸人の遺伝子に影響を及ぼしているのだろうか。
さてエンディングでは本当に二組の絡みがほんの少しだけ実現した。そこで何が起きたかというと、声がデカいわりにやり取りの内容が希薄で壮絶だった。

地獄学園CO〜阿鼻叫喚のコーナーライブ〜(シアターD)

MCを務めるガリットチュウとBコース・ハブが、若くてイキのいい芸人を相手にどれだけスベっても連続で大喜利を強要し、さらに肛門へサロンパスを吹きかけるという二大悪行で、文字通り地獄へと誘う巨魁イベント。逆に言えば一時間半のライブ時間、やってることはこの二つだけ。真の地獄である。東京吉本の大物フィクサー(名前を書くと消されるのでここには記さない)は「今後も続ける予定で、そのうち客も巻き込んでいく」とほくそ笑んでいた。今後ライブを見る際は遺書のひとつでもしたためてから向かう覚悟が必要だ。
そんなイベントの最大の見所は、地獄学園の教頭を名乗るガリットチュウ福島のビジュアル。ハゲヅラと丸眼鏡を着用しただけなのに、顔が実に不気味で不気味で、客席がゾゼゾゼとざわめいていた。私なりに表現すれば、「コーエン兄弟の映画に出てくる悪党を、つのだじろうの描線で描いた人物」である。

クロスバー直撃単独ライブ「ベストオブクロスバー2 1889〜2012」(シアターブラッツ)

クロスバー直撃の単独は、イベントタイトルでボケ、ライブ前に配られたアンケートでボケ、当然ネタでボケ、幕間映像でボケ、エンドロールでボケ、最後の挨拶でボケ、出口に置いた花でボケ、渡邊は完全無欠に似てないモノマネ・GOGOヒロミを封印して鯖を抱いたフォークシンガー・さばまさしでボケ、前野は太ってボケ、余韻だの感傷だの“含み”が一切なく、湯水のようにただただボケを垂れ流していた。もうコント始まった瞬間から、ボケに向かって最短距離で走るだけ。キャリア10年経ってもあんなに馬鹿の体力が落ちないなんて、カッコよすぎる。
得意の小道具もナイフからMRI装置まで異様な物量で、しかもその数はあれだけのボケ数を上回っているようだった。幕間映像で自室がスタジオのように扱われていた和牛・川西も、エンディングで顔を出した後輩のコマンダンテも、クロスバー直撃と絡むともはやボケるための道具にしか見えない。

ITADAKI FINAL9月(シアターD)

「芸人を引退して、タレントになる」ツイートを書いては消し、それがアングルなのか本気なのか外野は理解できず、台風前の湿った気配を発散させている中山功太。その才能が表舞台から消滅するのはまだ早いと思う人間の一人として偉そうにも何かせねばと思い、現在、限られた収入源であるはずの手売りチケットを購入する旨をツイッターで申し出て、会場に向かった。受付で名前を告げると、楽屋から功太が現れる。最近の舞台も見ているので体重増は折り込み済みだったが、髪をいつの間にか金髪に染め上げていて、その姿を見た瞬間、全然似てないのに私の脳裏には「小朝」の二文字が浮かんだ。なおライブのエンディングでは「俺は芸人やなくてタレントやから」とぐんぐん前に出て、“事情は分からないけれどなんだかややこしい感じ”で観客を抜群に戸惑わせる功太。この薄目を開いて眺めたくなる不穏な空気は、なんだかんだ言っても芸人にしか出せない味であると私は思う。
さて遅まきながら初めて足を踏み入れたイタダキライブは、女子高生が歓声を上げる意味での「若手芸人」の引導を渡された、芸歴10年以上の「若手芸人」だけが集まる、私にとっては最高すぎるライブ。この日の出演芸人をざっと挙げただけでも、ジョイマン、ですよ。のメジャー経験者、とくこ、ペレ草田の「あらびき団」残党、パタパタママ、どんぴしゃ、烏龍パークの上京勢、チャド・マレーンはいじぃ、アンナの「5じ6じ」閥、ギンナナ、ふくろとじ、セブンbyセブンモリエールシアターブラッツで各自100回は見たことある軍団、九州地区私立全寮制男子高校ズ、ランディー・ヲ様、ANDリーの「10年目だそうですが、どうもはじめましてこんにちは」芸人などなどなど、豊漁も豊漁の布陣だ。私の魚図鑑に載ってなかったピン芸人ランディー・ヲ様は、天竺鼠・川原を一回シャブ中にして再起させたようなサイケな芸風で、大変心をくすぐられた。検索して調べたら、最近インディーズから吉本に引き揚げられたらしい。ホリプロから移籍したメグちゃんといい、吉本の漁船は功太という高級魚を冷凍にしたまま、どこに網を広げているのだろう。
それにしても知らない芸人はまだまだいるなーと思っていたら、エンディングの告知タイムで耳にしたのが、「先輩のジンギスキャンさんと」「僕の同期のポリポリポリ助が」「今度、美川憲二さんと共演するんですけど」。ここまで来ると、さすがの私も検索しません。