新宿お笑いバトルEXIT!(BAR非常口)

最近気になっているコラムがあって、それが『Quick Japan』のコラム欄で不定期連載されている「私の注目する芸人」である。執筆者は各種お笑いイベント主催者を名乗るヂェームス槇で、この数号で紹介した芸人が永野、チャーリー東京、若井はやとという壮絶な目利きぶり。私が大愛聴しているポッドキャスト「森脇健児の楽屋噺」の存在もこのコラムで知ったのだ。その文章からにじんでくるのは笑いへの”愛”というよりも”性欲”に近く、これほどのお笑いドスケベが手がけるイベントはどんなものなのかを確かめるため、なぜか新宿2丁目のど真ん中にある会場へ向かった。
はたしてライブは最高の一言。事務所の先輩であるハリウッドザコシショウというよりG☆MEN`SのDNAを完璧に隔世遺伝したアンドレ、サンプラーを使ったネタはいつ「だれでもピカソ」に呼ばれてもおかしくないクオリティなのに、見た目のダウナーぶりが地上波進出を妨げそうなラ・サプリメント・ビバなど、どこから湧いたのか分からないハードコアな芸人ばかりが次から次へと出てくるのだ。元気いいぞう、永野に至ってはそこにいるのが当たり前のような佇まいだった。
またかつて芸名を「東京メトロ」にしたら本家から訴えられて改名せざるえなくなった女性ピン芸人・メトロポリちゃんVは、ネタの最中、最前列に座っていたリアルお笑いオタクを持参の大型注射器風クッションでボコボコにしばくパフォーマンスを敢行。どうにもお約束らしいのだが、クッションを振り下ろす力強さ、それを嬉々として受け入れる客、あれこれを含めてドン引いた。もう全てが私の想像力を上回っているのである。
その中でもベストアクトは、「ベテランシュール芸人激突・7分間1本勝負」と銘打たれた、チャーリー東京vsクリスタル大坪である。チャーリー東京先生といえば齢(よわい)78歳にして病気の方の天然ボケを無意識のうち芸に応用してしまう稀代の全身ボードビリアン。私も年に1回ほどのペースで先生をお見かけする機会があり、どういうわけかそのたびに「ちゃんと年金払わないとな」と思う。私にとっては毎年1年間の未納分を督促してくれる、ありがたい機関なのである。
そんな先生に太刀打ちできる芸人がいるのか? これがいたのである。その男の名はクリスタル大坪。なかなかの年嵩ながら真っ向勝負の漫談に挑むと、滑舌が悪くて何を言ってるかよく分からない、傷だらけのレコードのように話が飛ぶ、突然ニヤニヤ笑い出すという三種の神器で客を翻弄。関係者によれば「普段は大阪でせつない生活をしているらしい」の情報もあり、二人の好勝負に私の掌は汗でじっとりと濡れた。こんなマッチメイクをするとは、ヂェームス槇、本物だ。もちろんどっちが勝ったかは全く覚えていない。