東京吉本若手漫才協会本公演(恵比寿エコー劇場)

東京吉本若手漫才協会とは、私の勝手な想像によれば、若手芸人に流れ込むエネルギーと金をかき集めて「M-1」以降の漫才の新しい方向を作ろうとしたものの、「THE MANZAI」立ち上げによりその目的がウヤムヤになり、今は会長職を務めるロシアンモンキー中須が、この春に出演する「吉本興業創業100周年記念公演」の舞台で嫁の目の届かない大阪に長期滞在する際、ミナミの夜をどっぷり満喫するため、集まったなけなしのエネルギーと金を懐に温存している協会である。
さてこの日、開演が19時にも関わらず、仕事が押してしまって私が会場に到着したのは20時のこと。でも大丈夫。なぜならいつもライブが始まった後は出演芸人の紹介と称して、中高年のペッティングのようにだらだら絡みあうオープニングが1時間弱は続くからだ。しかし劇場の扉を開けると、MCのロシアンモンキーが「はい、前半が終わりました〜」と登場するところだった。後で聞くとオープニングは貴重な時間を不法投棄してることが発覚し、大幅な削減に追い込まれたらしい。事情が飲み込めない私は混乱して過呼吸を起こしそうになるが、中須の「いや〜、井下好井のひらかたパークの漫才、ウケてましたねえ。でも俺が「これ言え」と指示したマイケルのくだりだけはスベってたな」の一言を聞いて、どういうわけか呼吸が劇的に安定する。
さてこのイベントは、エンディングでもっともスベったコンビが水一滴もしたたらない雑巾レベルに絞り上げられるのだが、この日は和やかな空気のままエンディングが進む。しかしよく考えると、というかよく考えなくても、その直前、トリを飾ったロシアンモンキーの漫才は、ネタのキモである「ブギーマン」がほとんど観客に通じなかったせいで、中盤、会場の重力が木星クラスに上昇。そこで酸欠を起こしかけた中須が同じポーズをしつこく取り続け、「笑うまでやめん!」という意志表明というよりもはや超法規的措置を発動し、観客を屈服させて九死に一生を得たことは不問になっていた。スキンヘッドのハゲは思いきりいじれても薄毛はいじりずらいように、ややスベリは芸人のデリケートゾーンなのだろうか。
結局、エンディングでは最後の最後、エリートヤンキー・西島がロシアンモンキーに海亀のモノマネを押しつけられ、狙い通り、冬の海岸のような風が劇場に吹きぬけたところで終了。私はそれを見ながら、昔読んだ推理小説のトリック「殺人を犯した将軍が死体を隠すため、必要のない戦争を始める」を思い出していた。ロシアンモンキー・川口の家庭で新生児が誕生する一方、舞台の上では若手芸人が次々と命を失っていく。