千鳥単独ライブ「大漫才師」(ルミネtheよしもと)

東京で行われた三回目の千鳥単独。漫才4本がどれも面白かったとか、新人時代の衝撃の漫才「百択」が姿を変えて戻ってきたとか、それなりの感慨はあるけれど、ネタよりも重要だったのは、興行の7割を占めた不景気芸人とのトークコーナーである。
大阪で売れっ子の座に収まり、上京後「売れる」の先にあるタイムセール状態に突入した中山功太とろサーモンムーディー勝山、ソラシドの4組が登場(この4組の同義語は、先駆けて大阪で行われた千鳥単独に招かれた、つばさ・きよしりあるキッズ、ヘッドライト、ギャロップである)。そこで「このスペースを使ってロックフェスを開催できるのでは?」と思わせるぐらい余白の多いスケジュール帳を見ながらトークする「ぼっけぇTV」のエース企画が投入されると、某芸人が堂々と闇営業を記入していたり、「9連休なんて実質2日やで」という功太の名言が飛び交ったりする中、やがて私を刺激してやまない、ソラシド本坊の飯場トークが始まった。土木稼業に精を出し、仕事のない日はコンクリを流し込んで埋める本坊は、口をついて出る単語がネコだの、掘削機だの、ドカヘルだの、シャーパー鋸だの、関東ローム層だの、劇場とメディアの匂いがいちいち皆無で、今ここで呼吸したらアスベストが肺に入ってきそうな勢い。さらに舞台出番のある日を「体が楽。ほとんどオフみたいなもんですね」とまで言い切っていた。いつ休むのだろうと思ったが、よく考えると前日に参加していた「D関無双」のエンディングでは、「今、沖縄の踊りを習ってまして、明日、なかのZEROホールで発表会があります」と告知していたのだ。土木と沖縄舞踊と、時々、舞台。もう不景気とか、そういう次元の話ではない。
大阪芸人にとって東京がいかにきびしいか、土砂を浴びるがごとく聞いたため、ライブ終了後、私は夜空を見上げ「これから千鳥は東京で躍進できるかな?」と思いを馳せた。ということは全くなく、頭をよぎるのは、先導車が次々とクラッシュして大阪で二の足も万の足も踏んでいるであろうダイアンのことばかり。早速チケットよしもとで芸人の名前を検索して仕事量をチェックしてみると(私のライフワークだ)、ダイアンの出番が意外に少なくて気になることこのうえない。代表作である漫才のように、西澤は「上京? 何それ。初めて聞いた」と津田に尋ねているのだろうか。