第11回漫才新人大賞(国立演芸場)

漫才新人大賞。今年で11回目を迎えるこの大会は、常連出場者だったWコロンいわく「第1回は予選参加が芸人が8組で本選出場が6組」、ナイツいわく「自分たちが優勝した第2回は客が20人」という、ジャンルで分ければ「コンテスト」よりかは「会合」に近い公演で、私も5年前、「相当ジャンクなことやってんだろ?」と興味本位で足を伸ばしたら、おらが村一番の力持ちを決めるような盛り上がりに圧倒されたことは記憶に新しい。
その漫才大賞に、私が雑誌「kotoba」で密に取材した福島芸人・母心が出場する。これは見届けずにはいられない。思わず熱くなりかけるが、冷静になると5年前、審査員がマシンガンズに「君たち、そんな早口じゃ老人ホームでウケないよ」と真顔で言い放った大会である。お察しの通り、優勝自体にそれほどの価値はない。それよりも芸人運命を左右するのは、今回司会を務める爆笑問題にハマるか否かだ。台風が迫って足早に帰る人たちとすれ違いながら、私は会場へと向かった。
さて久しぶりに足を運んだ漫才新人大賞は、数年前から漫才協会以外の外来種芸人に対しても門戸を開いた効果で、ネタのレベルが段違いに上がっていた。特に漫才協会所属の若手は、かつて寄席というガラパゴス島流しにされた印象があったのに、流離! チョコレート球団やらカントリーズやら、寄席の外へ出ても十分ウケるであろう完成度である。そんな種の多様性が進化を促す中、協会所属以外で気になったのは、爆笑問題の後輩芸人・ウエストランド。ツッコミを大量生産したそばからベルトコンベアに乗せて次々捨てていくような芸風は、未熟で完成度も何もあったもんじゃないけど、面白いことだけは確かだ。
さて後半戦に登場した母心は、予選で爆発的にウケていた原発ネタを披露。集大成と言っていい出来だったが、ややシリアスな空気に傾いた会場で大回転を起こすまでには至らなかった。大賞を受賞したのはカントリーズだった。
とはいえ前述した通り、この大会で大事なのは大賞よりも爆笑問題にハマるかどうかである。しかしここでとんでもない強敵が現れた。その名は新宿カウボーイ。デカい図体と無尽蔵のスタミナを武器に、全てを「ひょうきん」で乗り切ろうとするボケ担当・かねきよは、この日も普段散らかして散らかして回収せずに消えていく事務所ライブのようにやりたい放題。冒頭のギャグ「ぶりっこ」に至っては、少なくとも私の客席周辺では轟くほどウケて、「すげえヤツが現れたぞ! こりゃ優勝あるかも」という空気に一変した。
ところが新人大賞のネタ時間は8分。5分を過ぎた頃から雑味だけで成り立ってるようなかねきよの味わいに客が慣れだしたのか、漫才が終わる頃には会場はまあまあしっとりとした空気に着陸していった。短時間で客を沸かせたと思ったら、地金を晒してクールダウンに事欠かない男・かねきよ。もう面白い。
さらに大賞受賞者を発表するエンディングでもかねきよは無軌道・無計画・無担保でぐんぐんボケるもんだから、爆笑問題・太田が興味を示し、「おまえ面白いな!」と興奮していた。審査員長の澤田隆治先生は馬力頼みの芸に顔をしかめ、「新宿カウボーイが優勝することはない」と断言していたものの、太田にハマった時点で半分優勝したようなものである。そこに母心が座ったらいいなと私が夢想していた椅子には、かねきよが低い重心で腰を下ろしていた。
終演して外に出ると、台風が直撃して滂沱の雨だった。私は挨拶した母心のしょんぼりした顔を思い出して、せつない気分になる。帆のように膨らむビニール傘をつかんで、強風にあおられながら永田町駅まで歩いた。駅の階段を下りていくと、公演帰りらしき女子3人の話がぼんやり聞こえてきた。
「面白い人って世の中にいっぱいいるんだねえ・・・」
「うん」
「驚いちゃった、ね。でもわたしはさー、「面白かったよ」って言ってあげないといけないから」
今日出演した芸人、それもスベった芸人の彼女か友達なのだろうか。応援している芸人が結果を出せなくて、勝手に傷つく。大きなお世話だ。大きなお世話なんだ。
改札へ向かう女子たちを遠巻きに眺めながら、私はかけたかった言葉を小さく呟いてみた。「君たち、かねきよの友達じゃないよね?」と。