ニューヨーク単独ライブ「Sex and New York」(ヨシモト∞ホール)

キングコング西野がニューヨークで開催した個展が見たいのだが、渡航費も時間もないので妥協して東京吉本若手のニューヨーク単独へ。発売間もなくチケットを購入しようとしたら指定席B列指定だったため、そんなに前で見ると「西野のニューヨーク個展に行こうとしたのに、意気込みが空回りしてニューヨーク単独に来てしまった人」と思われることを恐れてひとまず退却。ライブ前日にD列の席を確保して会場に着いたら、客足が伸びたのではなく膨張したようなまさかの超満員だった。芸人が観覧する立見席に至っては、ノアの方舟かというぐらい、多種多様な哺乳類がパンパンに詰まっている。
はたして初単独は、手相占いや自衛隊ドラゴンアッシュや満を持して鉄板トークする関西芸人に対して毒を吐く、というより、見てないスキをついて毒を塗るような悪辣な漫才とコントのラッシュ。5年後、2人揃ってすごい悪いツラをして、後輩芸人をいたぶるMCで活躍する姿が目に浮かんだ。また6月に単独をやる予定らしく、その時はまた満員で、芸人の観覧がパンパンで、私もそこにいるのだろう。ニューヨーク個展とかぶらないかぎり。

本坊元児と申します(阿佐ヶ谷ロフト)

大阪から上京後、芸人としての仕事がほとんどなく、肉体系派遣労働者としてヘルメットつきの頭角を現すようになったソラシド本坊が、日曜の13時からプロレタリアートーク(飯場の不満)に興じるライブ。以前、千鳥ライブのゲストに呼ばれた時も掘削機だのドカヘルだのシャーパー鋸だの現場用語が新鮮すぎたが、今日も今日とて口をつく言葉が「ガラ出し」「墨出し」「相番」「マンホール洗浄」「ネジ山検査」「首都圏断熱」などで、別言語のような土方ワードにときめきを覚える。
そして休憩を挟むと本坊はスーツで出現し、建築請負会社の就職説明会を唐突に開始した。このリクナビを3万回検索してもヒットしない密室談義は40分に及び、聞き手であるとろサーモン村田をイライラさせ、リクルートスーツのいない会場を唖然とさせていたが、私は「イッセー尾形がピン芸を始めた頃、1時間近くバーテンダーの芝居をして客の顰蹙を買った」という伝説を思い出していた。つまりこの説明会の模写芸を煮詰めて煮詰めて5分サイズに凝縮することができれば、スリムな就職説明会として学生から好評を博すはずである。
不思議だったのは、私の近くにいる女性が舞台を見ながらせっせとメモをとっていたこと。リクナビを3万1回検索すると、あの説明会が案内されるのだろうか。

イタダキライブ(シアターD)

芸歴10年以上のお笑いを彷徨う芸人たちが集結するイタダキライブは、出演枠が広がったのか、これまで以上の芸人の多さ。そんな言葉あるのか知らないが、負債を増資したような状況にぐっとくる。
さてこの日、私はとある用事でお笑いライブが初めてという編集者と同行していた。なのでこの時代にまるで『エンタの神様』を狙ってるかのような原始人あるあるのリズムネタを披露し、それがどういうわけか今まで以上の完成度を誇っていたキャベツ確認中を「あのモヒカンの方が思春期の娘持ちで、そうでない方は早稲田の応援団出身です」、おかっぺを「実は彼は十年以上のキャリアがあって、芸風は何ひとつ変わっていません」などと説明すると、あまりの異文化ぶりに、春画を見て「UTAMARO!!!」と絶叫する修道尼ぐらい驚いていた。でも帰り道、「あのとくこという女性芸人の兵藤ゆき漫談、最高でしたね!」と喜んでいたから、これが原因で仕事を失うことはない、と祈りたい。
個人的には「イタダキライブ版芸人報道」というコーナーで聞いた「網走の流氷祭りでエヴァンゲリオン初号機の頭の雪像を作ったところ新人賞を受賞」「錚々たる吉本芸人を集めて網走移住記念ライブを開催したら本人がインフルエンザで出演できなくなるが、ライブはつつがなく終わる」など、続々近況が報告された北海道住みます芸人・ハローケイスケの話題に心が温まる。白いジーンズにピストルをねじこんだ例のスタイルで、次は網走刑務所看守に進出だ。

とにかく醜い争い! 第1回松竹芸能杯心 のブスNO.1決定戦(新宿角座)

「心のブスNo1決定戦」・・・。響きからに黒くてゲスいゴシップが渦巻いてそうで、新宿ピカデリーで映画を観たついでに覗いてみる。そしてこのライブは私にとって生涯忘れられないライブになった。
なぜか。それは衣装から態度、セコンドのチョイスまで、ありとあらゆる全てふざけ尽くしている永野が酒を注入してライブに挑んだからでも、THE GEESE・尾関が「ロード・ウォリアーズはスラム街出身でネズミを食べていた」のような荒唐無稽のギミックではなく、「安田忠夫は借金まみれ」に近いファンタジー皆無の楽屋泥棒キャラを確立していたからでもない。私はこのライブの後、ふらりと飲みに行き、藤子不二雄先生のマンガに出てくる「仕事から脱走して空き地で休憩中のアイドルとばったり出くわす」ような体験をしたからだ。私は運を使い果たした。これから一生、年賀ハガキで切手シートを当てることもなければ、麻雀で満貫すらおぼつかないだろう。でも新宿角座に行かなければあんなことは起きなかったわけで、ありがとう「心のブスNo1決定戦」。ありがとう松竹芸能。優勝おめでとう彼女の近くに住んでる女を口説くピーマンズスタンダード吉田。これだけ煽っておいて、どんな体験をしたのか一切書きません。心のブスだから。

かたつむり単独ライブ「復活」(渋谷区文化総合センター大和田伝承ホール)

かたつむりが活動を再開した。あのあの出鱈目で、ふざけて、かぶきまくったコンビだ。ツッコミ担当の章吾が「月島にある実家の居酒屋を手伝うため」という切実な理由から、ほんのりと姿を消して3年。活動休止イベントに行った身としては、あの出鱈目で、ふざけて、かぶきまくった末、どこかで野垂れ死しそうな芸風が見たくなって、劇場へ向かう。
結論から言うと、2時間40分の長尺ライブはしんなりしたコントがたらたら続いて結構疲弊したのだが、章吾が活動休止した本当の理由が「ギャンブルで借金500万円をこさえ、実家を手伝いながら毎月20万円の月給のうち返済に18万円を当てていた」ことを知っただけでも満足する。またオープニングは和太鼓集団がバキバキに叩く太鼓に合わせてかたつむりが納豆をかきまぜた後、すぐ休憩時間に突入。その間、二人が会場を練り歩いて出演ライブのチケットを手売りすると、たまたま章吾が私の座っているエリアへ歩いてきた。そしてあろうことか、私に異様な眼力を向けて「チケット要りませんか?」と訊ねてくるではないか。
ここはひとつ復活のご祝儀で購入してもいい場面である。しかし私は「大丈夫です」ときっぱり断った。そのライブに行けるかどうか分からなかったから断ったわけではない。「この狂った瞳の男とこれ以上関わってはいけない」と動物的本能が働いたのだ。今思い返しても『レイジング・ケイン』のジャケットそっくりの顔をしていた。
そんなこんなでつまり、かたつむりは復調した。今後、パチンコ屋、雀荘、闇カジノで章吾を見かけることがあったら、私は「おまえ、ギャンブルはやめたんじゃないか」と注意する。ことはせずに遠巻きに眺めていたい。だって『レイジング・ケイン』の顔して麻雀打ってるヤツなんて絶対関わりたくないもん。

ケンコバと杉作(イイノホール)

イイノホールは東京の中心にある霞ヶ関日比谷公園を見下ろす、好立地の劇場だ。創業110年を誇る飯野海運が「文化や芸術をはじめ、あらゆる知的活動を愛する人のために役立つ存在になりたい」という趣旨のもと運営しており、伝統芸能や講演会などが開催されている。
そんな由緒正しく、格式高い、清廉で厳粛で優雅なイイノホールの舞台に置いたコタツを囲んで、ケンドーコバヤシと杉作J太郎が笛裸と燻煮について語りつくす二時間。もちろんそれ以外に話題も多々あったはずが、振り返れば「笛裸の時はいつ肉棒を噛み切られてもおかしくない状態だから、脳天唐竹割りをぶちこむ準備をしている」「モラル的に許されるのであれば、笛裸をしてくれる女子の親御さんに手紙を書きたい」「箇所を直接舐めるのではなく、股間の熱を感じることが新しい燻煮の定義」「銀行の頭取が燻煮を嫌いなわけがない」などなど、その手の話題しか思い出せない。そして終演一〇分前、広島の仕事へ移動しなければいけないという理由で、さんざん変態プレイで燃えた後にシーツを汚したままの状態でそそくさと立ち去るJ。ガラス張りの壁から日比谷公園を見下ろすと、紅葉の中を赤いダウンジャケットのJが走り去る姿が見えた。ような気がした。
舞台がはねると、燻煮の話を浴びるほど聞いた影響か、同行したTスポM本さんに「銀座にできた広島アンテナショップの中にオイスターバーあるらしいんで、生牡蠣食べに行きません?」と誘われる。

ハリウッドザコシショウのものまね100連発ライブ(なかの芸能小劇場)

komecheese2012-11-23

モノマネ●●連発、と聞いて思い出すのは神奈月である。AKB48『ヘビーローテーション』にのせて、序盤からSIAM SHADEがぶちこまれ、中盤に馳浩長州力、天龍、前田日明の連発で見る者を絶句させたところに、終盤は嵐だのKARAだの露骨な人数水増しでモノマネ48連発を達成する、あのお笑い粉飾決算だ(その後発表された『フライングゲット』の48連発も内容は全く同じ)。しかしそんな更新不可能と思われる偉業に挑戦する勇者が現れた。笑芸界きってのスーパー異常者・ハリウッドザコシショウである。しかも一気に100連発。3連休の初日、子供の面倒を見る約束を反故にして、私は中野へ向かった。
ザコシショウは黒のカウボーイハットにブリーフ一枚、そして肩からタオルをぶらさげるという、まるでランチに出かけるOLがカーディガンを羽織るような気さくな装いで舞台に現れた。このライブは多忙になったバイきんぐとの合同ライブが叶わなかったため行われる穴埋めライブという趣旨が説明されると、そこからモノマネが次々繰り出されていく。「アルバム『√5』のKONTAの立ち方」「グレートカブキの平成維新軍入団会見」「ゲーム『がんばれゴエモン』の敵キャラ「御用だ!」が死ぬところ」「スーパードライのCMのマイク・タイソン」「自宅のCHARA」などなど・・・。
ここで勘のいい読者は引っかかったかもしれない。「自宅のCHARAって何だよ?」と。説明するのも野暮だが、「自宅のCHARAはこうしていると思う」という空想の下、『やさしい気持ち』のメロディで「ハナクソまるめていいですか〜♪」と裏声で熱唱するモノマネである。ここで勘のよくない読者も気づいたかもしれない。「それってモノマネなのか?」と。
たとえば「『キャプテン』に出てくる青葉学院の監督」というモノマネは、おそらくしわがれ声のオヤジが「谷口くん」と言うだけのネタだったと想像するのだが、客の反応が上々だったことでザコシショウがスパークしたらしく、疾患のようにモノマネが止まらなくなり、最後は「谷口くん、谷口くん」と呟きながら谷口に向けて千本ノックを始めていた。そう。それはモノマネというより、“捏造した記憶をデフォルメした何か”もしくは“捏造した事実をデフォルメした何か”なのである。当然、その場に居合わせた観客も「これってモノマネではないよな?」と薄々感づき始める。しかしザコシショウがいきなりダッチワイフを持ち出してライガーボムをキメたり、「Mrマリックのテーマ曲」と称してただただ「♪チョゲ、チョゲ、チョゲ」と口ずさむ光景を見せられた暁には、もうそれがモノマネなのかどうかという区分は一切気にならなくなり、早く100連発を達成して無事解放されることを祈る心境に変わっていた。さらに驚くべきことに、ザコシショウはモノマネがウケると調子に乗って同じモノマネを2回反復し、モノマネがウケなければウケないでしつこく2回反復。結局100連発という小さな枠には収まりきらず、モノマネ約300連発のゴールへ向かっていくのだった。
その後もプロレスとTVゲームを軸にモノマネをガッツリガツガツ繰り出し、序盤用いていた得意ギャグのブリッジ「コス、コス、コス!!!(殺すの意味)」は、どんどんネジがゆるんだのか、最後は普通に「殺す、殺す、殺す!!」と叫ぶ始末。3連休初日の午後3時。私は子供の面倒を見る約束を反故にしてその光景を見ている。風流だ。
気がつけば1時間半が流れ、カウボーイハットもタオルも脱ぎ捨て、もはや達磨大師にしか見えないザコシショウは、用意したモノマネを全て完遂。満足気な表情を浮かべ、「次は1000連発でもやるかな!」と宣言した。ザコシショウなら必ずできるに違いない。だって今日やったモノマネを1つにつき10回繰り返せばいいんだから。そんなことよりも私は今、どんな芸人に対しても寛容なのに、ザコシショウがテレビに映ってると「この人だけは生理的にムリ。チャンネル替えて」と言い放つ妻にどんな言い訳をすればいいのか、考えあぐねている。