前田隣るすばんライブ(上野広小路亭)

ライブで稼いだ収益を闘病中の前田隣師匠にお見舞金として差し入れするゲイニン・エイドは、回を重ねて4回目に。前田隣師匠を分からない人に説明しておくと、昭和40年代「親亀の背中に小亀を乗せて〜」をひっさげたナンセンストリオとして一世を風靡し、手元にあるお笑い雑誌『キンゴロー』(92年刊)の貴重なインタビューを紐解くと、「ヒロポンから足を洗えたのは、やっぱりコメディアンになりたかったから」「(ヒロポンの常用で)飯食わないから骨と皮みたいになっちゃって」「ヒロポンの他にチクロパンもあってね。アンプルと粉を混ぜて打つんだけど、これがセックスの360倍いい!」など、芸談の3割がヒロポン談義というダンディを絵に描いたような御仁である。
初めて同ライブに足を踏み入れた私は、前田隣師匠の話が随所にちりばめられるのかなと想像していたところ、各芸人とも普通にネタをして、垣間見えた接点は、ストレート松浦がジャグリング中のBGMに矢井田瞳の「My Sweet Darlin`」を採用し、寒空はだかが「リンダリンダ」を歌ったことぐらい(なんと歌詞の一部が”マエダリン”を髣髴とさせるんだ!)。しかし最後には前田隣師匠の身内が舞台に現れ、「前田は脳梗塞と癌にくわえて、年末、肺病になりました。さらに運ばれた救急車が運送中、交通事故に遭遇」と報告するや、場内は爆笑。なぜかグレート義太夫も飛び入りで参加し、「月・水・金に中野で透析を受けています」と告知して喝采を浴びていた。
そんなホスピスの慰問会を思わせる温かい空気の中、会場の空気をかき回して光っていたのは立川左談次。落語をやらず「ラドン温泉では鉄板」というフリップを使った30年前の余興ネタで出番をやりすごすと、エンディングではマスクを着用するフル装備の帰り支度で登場し、喋るそぶりさえ見せなかった。にもかかわらず、前述のジャグラー・ストレート松浦が「今度、童話を元にした舞台をやります!」と告知した時だけは、マスクをはずして「くだらねえことやってんじゃねえ!」と鬼の形相で一括。さらに幕が閉まる瞬間には客席に向かって土下座する奇行も。もし次回があったら楽屋に酒とヒロポンを差し入れしたい。